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「水稲無コーティング種子代かき同時播種栽培の実証」収穫レポート
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収量と省力化に手応えがあった「かん湛!」

収量と省力化に手応えがあった「かん湛!」

2022年5月に、秋田県大仙市で水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培(愛称:「かん湛!」)に取り組む佐藤様の播種作業に合わせて、農研機構東北農業研究センターと大仙市の共催で行われた現地検討会をレポート。技術の最大の特徴である無コーティング代かき同時播種機を紹介しました。今回は実証ほ場を再び訪問し、10月3日に行われた収穫作業の様子と、収穫までの生育状況と今年度の結果についてレポートします。

 


 

取組初年度の収量結果は560kg/10a!

 従来の直播栽培より、さらに省力・低コスト化が期待できる新しい直播技術として、注目されている水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培(愛称:「かん湛!」)。トラクタでの本代かきと同時に、無コーティング種子を土中浅くに播種する、まさに「カンタン」な栽培法で、今年度の栽培面積は、秋田県と岩手県で約45haずつ、全国で約200haと普及が進んでいます。
 その「かん湛!」に今年度から挑戦している大仙市の佐藤さん。鳥害や雑草対策に苦慮しながらも10月3日に待望の収穫を迎えました。東北農業研究センターと大仙市の実証ほ場となっている佐藤さんの稲は、穂のモミが大粒でよく揃っており、収量もしっかりと525kg/10aを確保。佐藤さんが作付けする移植の「ゆめおばこ)と同等の収量を取れることを示す実証となりました。

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生産者の声

移植と同等の収量を確保でき、初年度の取組は100%満足です
課題は鳥害と雑草対策に対応する水管理です

心配だった発芽苗立ちをクリア。スズメの被害は深水で対応

 「かん湛!」は今年初めて取り組んだので、芽が出るかどうか、最初はやっぱり心配でした。そうしたら3日ぐらいで芽が出てきました。2週間くらいで、水面からはっきり見えるようになって、気にかけていただいていた周辺の皆さんから「芽がそろったな」とか言われて、ようやく胸をなでおろした感じでした。水管理はあまり難しくなかったです。移植とほぼ同じですよ。水が多いと発芽率が悪いと言われていましたが、湛水状態でもこの通り良くできた。ただ、このほ場は合筆した後で高低差があるので、その点に気を付けて上手くやれば、それほど苦労はないと思いました。田面が高いところはスズメの被害を受けたので、来年は鳥害対策としての水管理を考えないといけないと感じています。田面が露出すると被害に遭うので、ある程度水位を上げて均平を図るとともに、スズメから種モミを守った方が良いと思っています。

雑草対策は今後の課題です

 播種の翌日に初期除草剤を散布して、その後、芽が出てから2回目の一発型除草剤を散布しました。それでも一部でノビエを抑えきれず、追加で2回の除草剤散布となりました。雑草対策は、今後の宿題ですが、均平化とともに、初期の水管理をもう少し上手くやれば、除草剤の効果が出て、使用回数も減ってくるかなと思います。中干しは、移植なら7月中旬に2週間くらい行いますが、「かん湛!」は、少し強めに8月頭から3週間ぐらい干そうかと思っていました。ところが天候不順で、中干しが予定通りできませんでした。中干しをもっとしっかり出来ていれば、もう少し倒伏も防げたかもしれません。ただ、倒伏については、ほ場の高低差や、ブロードキャスタによる全層施肥の散布ムラにも原因があると思います。

2022年「かん湛!」大仙市実証ほ場 生育の過程

 

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移植並みの収量を確保。来年も続けて取り組みたい

 収穫の手応えは、十分にありました。東北農研センターの今須さんからは、「直播は移植より1俵くらい少ないですよ」と言われていたのですが、収穫した感触では、移植と変わらないような気がします。初年度としては満足な結果です。これから皆さんと今年の結果を検討したいと思います。今後のことについては、後継者の人たちにも相談しないといけないですが、育苗作業が要らないだけでも大きなメリットです。規模拡大するためには「かん湛!」が一番良いと考えていますので、ご指導を受けながら続けていきたいと思います。

実証担当者に聞く

「かん湛!」は、誰でも安心して取り組める直播技術だと実感しました!

苗立率70%を確保し、移植と同等の収量を実証

 佐藤さんのほ場は、播種後3日目には出芽し、5日目くらいには条が見えていました。目標とする60%を超える70%の苗立率を確保できたことから初期生育は順調に推移し、鳥害や雑草には課題を残しましたが、出穂期には移植ほ場と変わらない稲姿となりました。播種日が遅かったため、穂が小さく未熟粒が多いことが心配されましたが、収穫を迎えて穂のモミは、とても大粒で揃ってるので出来はすごく良いと思います。収量については、佐藤さんが作付する移植の「ゆめおばこ」と同じくらい穫れていると感じます。

出芽の早さが安定した生育をもたらす「かん湛!」

 「かん湛!」の良さは、播種前までのほ場準備に、特別なことをする必要ないということです。移植栽培と同じように行えばよく、播種機の操作も難しくはありません。強いて言えば播種後の水管理に注意が必要ですが、初めて取り組まれた佐藤さんが、これだけしっかり出芽を揃えているのを見て、あらためて安定している技術だと自信を持ちました。 これは、出芽が早いことが要因だと考えています。従来の直播は芽が出るまで時間がかかることもあるので、初めての方は不安になりますが、その点、「かん湛!」は、催芽した種子を播種するので、出芽までの期間が短く、安心して取り組めます。さらに、水管理もシンプルで簡単です。「かん湛!」は、基本的には落水出芽なので、「播種後は水を入れないで、出芽が揃ったら水を入れてください」とお伝えしているのですが、出芽揃いが1週間から10日くらいと早く、目で見て入水のタイミングが分かります。これは取り組む農家さんにとっても大きなメリットだと思います。

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導入後も失敗しないで継続していける直播技術に成長させていきたい

 移植栽培の面積が増え、苗を育てられない分を直播導入するという方も多く、後戻りできない状況の中で、一度導入された方々が失敗しないで確実に栽培を続けていけるように技術改良を進めたいと考えています。例えば今回は雑草と鳥害の対策が上手くいきませんでしたが、その他にも苗立ちが安定しない等、もし現地で課題が見つかれば、持ち帰って研究して、今後初めて取り組む方々が同じような失敗をしないために、原因や対策を提示していけたらと思います。

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ワンポイントアドバイス

「かん湛!」の省力性や収量性が実証で確認できました。
GSトラクタとの相性が抜群で、取り組みやすい技術です。

技術の導入と留意点

 「かん湛!」は、種子消毒、殺菌剤の種子処理、浸種、根出し処理(または催芽)のみで、鉄資材や石灰資材のコーティングをしないので、種子の準備がとても簡単です。また、代かきに用いている通常の小~中型トラクタと代かきハローを用いるため、追加で必要な農作業機は専用の播種機のみです。多目的田植機の移植部を直播部に組み替えるだけの「鉄コーティング直播」と同様に、比較的少ない投資で技術導入ができることが大きなメリットです。しかも、仕上げ代かきと同時に播種作業ができ作業工程が1つ減ることで、省力化が図れます。直進時の自動操舵機能と作業経路ガイダンス機能が付いた「GSトラクタ」と組み合わせることで、真っ直ぐに播種でき、作業のし忘れや無駄な重複がなくなります。作業が効率的になるだけでなく、播種密度も揃うので良い稔りに繋がったのだと思います。種子ホッパーには100Lまでの種子を搭載できるので、播種作業中の補給回数が減り、1人作業も可能になります。一方、施肥は耕うん前までに行っておく必要があります。また、播種機は折りたたみハローには取り付けができませんのでご留意下さい。

栽培のコツ

 播種のコツの一つは、荒代かき後、日数を空けずに、作土がふっくらと水を含んでいる状態で仕上げ代かき同時播種作業を行うことです。日数が空くと、田面が居着いて硬くなり、きれいな覆土が難しくなります。また、田面水が多いと種もみが浮いて流れやすくなります。田面に播種された種もみは鳥害を非常に受けやすいので、作土の硬軟を調節し、種みもが浅く土中に隠れる程度に、しっかりと覆土することが重要になります。根出し種子または催芽種子は出芽が早く、初期の生育確保が比較的容易にできます。今年は6月上旬の気温こそ低めでしたが、比較的安定した気温で推移し、分げつ発生が早く茎数が確保しやすかったのではないかと考えます。播種量を6㎏/10aと多めに設定しましたが、生育や登熟歩合を確認しながら徐々に減らしていくことも可能だと考えています。2年間の実証や、これまでの東北農業研究センターのデータから、収量は移植と同等に確保できるということが明らかになってきました。農業者の皆様が、この技術をさらに安心して導入いただけるよう、栽培技術と機械作業の両面から引き続き検討を重ねていきたいと思います。

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