肥料や燃料費などの生産資源価格は高騰し続ける一方で、米の需要に関しては増加しており、コスト削減を行いながら、いかに生 産拡大を行うかが喫緊の課題となっています。この問題を解決する技術として関心が高まっているのが、早期水稲収穫後の刈り株か ら再生させた稲を収穫する “再生二期作” です。鹿児島県で技術の確立を目指し実証に取り組むなか、8月5日、南さつま市の再生二期 作のほ場において普通型(汎用型)と自脱型の2台のアグリロボコンバインによる実演会を兼ねた一期作目の収穫作業が行われました。
目次
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早期水稲ほ場における再生二期作に向けたコンバイン収穫の実演会
鹿児島県南薩摩地域振興局 農林水産部
農政普及課の内門佑太様
米の生産拡大を後押しする再生二期作の実証
鹿児島県南さつま市大浦干拓では、温暖な気候を活かし、3月下旬~4月上旬に田植えを行い、7月下旬から8月にかけて収穫を行う超早場米の生産を行っています。1回目の早期水稲収穫後に残った刈り株から再び生長するひこばえを利用して2回目の収穫を行う技術“再生二期作” が、収量向上につながると注目を集めています。
鹿児島県では、“再生二期作” の技術マニュアルを確立するため、南さつま市の生産者である下屋さんのほ場を使用し、現地実証調査を行っています。鹿児島県の再生二期作の実証は、①一期作目、二期作目の収量変化、②二期作目の収量・品質向上に向けたドローンによる可変施肥の実施、③普通型コンバインと自脱型コンバインでの性能差及び、二期作目への影響についての3課題について、実証調査を進めています。
今回“再生二期作”の実証を担当している鹿児島県の内門さんは、鹿児島県農業開発総合センター園芸作物部農機研究室と共同で実証を進めており「米の価格高騰の影響で、生産者の皆様にとって生産拡大は喫緊の課題です。そこで、鹿児島県では数年前から実施されている“再生二期作”に着目しました。再生二期作は、ほ場をリセットし、新たに苗を作り田植えをするのではなく、刈り取ったあとの稲株から再度生育を促し、2回目を収穫することで、コストを抑えながら所得向上を目指せる技術です。しかしながら追肥や収穫方法など、技術の核となる栽培事例が少なく、技術に不透明な部分が多いため、令和7年度“早期水稲の再生二期作による低コスト安定生産技術”をテーマに実証をスタートすることにしました」と経緯を語ります。
8月5日に行われた1回目の収穫作業では、普通型コンバインDRH1200Aと自脱型コンバインDR6130Aを使用した実演会が開催され、機械の性能を確かめようと多くの生産者や関係者が集まりました。内門さんは「再生二期作を行う場合、一期作目の収穫は高刈りが推奨されており、また二期作目に関しては稈長が短くなるため普通型コンバインでの収穫が望ましいとされています。しかしながら、従来の普通型コンバインではロスが多いのではと懸念が生じていたため、慣行の作業では一期作目は自脱型コンバインでの収穫が行われていました。新しくなったクボタの普通型コンバインDRH1200Aは収穫脱こく性能が向上し、ロスが少ないということで実証では一期作目から活躍できると考えています」とDRH1200Aに期待を寄せています。
「今回の試験では二期作目の収量向上を目指し、収穫前に衛星リモートセンシングを実施、ドローンによる可変施肥区と、定量施肥区を設定した追肥の試験も併せて行っています。栽培管理を行いながら、二期作目では一期作目の50%以上の収量を目指し、肥料代も含めてしっかり収益
を上げる結果を出せればと考えています」と内門さん。二期作目に向けた取り組みはすでに始まっています。
DRH1200Aの収穫作業を確認する関係者
高温に強く多収品種である「なつほのか」の収穫前のほ場
収穫後のほ場。刈高さ約20cmで収穫を行った
8月20日の生育状況(二期作目)
令和7年度実証 早期水稲再生二期作による低コスト安定生産技術の実証概要
背景
●鹿児島県を含む西南暖地では早期・普通期水稲の二作型があり、南西諸島を除けば、全国で最も早い時期、3月後半から早期水稲栽培が行われている
●近年の気候変動により、生育期間の大雨あるいは渇水、登熟期の高温等により水稲の品質、収量が不安定となり、さらに肥料や燃油などの各種生産資材が高騰している
●全国的な米不足により、需要が供給を大幅に上回り、米価格そのものが高騰。業務用米を含む主食用米や加工用米の生産拡大が喫緊の課題となっている
成果目標
●一期作目に再生二期作の収量を加えた全体収量の確保
●再生二期作における可変施肥を活用した効率的な施肥技術の確立
実証概要
①一期作目における普通型コンバインと自脱型コンバインによる収穫作業性能の比較
②衛星リモートセンシングを活用したドローンによる可変施肥が収量性に及ぼす影響
③最新のアグリロボ普通型コンバインの収穫・選別性能の検証
■作業スケジュール
生産者の声
鹿児島県南さつま市
下屋 国和様 (経営内容:水稲27ha、そば25ha、大麦80a)
省力、低コストで利益向上が見込める技術
「今、販売先から“米はいくらでも出してください”と話がきています」そう口にしたのは、大浦町の干拓で水稲を中心に複合経営を行っている下屋さんです。先代から事業継承を経て4年目になる下屋さんは、受け継いだ機械の更新を検討するなか、新しい機械への投資に向け、収益向上を図る技術を模索していました。そんな時、地域の先輩農家が取り組んでいた“再生二期作”に出会いました。「“再生二期作”は手っ取り早く収益を上げる技術だと考え、3年前より取り組んでいます。メリットは、一期作目は播種から育苗、移植と、人手や資材費がかかりますが、二期作目は何もしなくても、稲株から新たに米が実るので、労力もコストもかからないところです」と下屋さん。二期作目の収量は反当たり100~200kgと一期作目より下がる反面、ほとんど経費をかけていないので利益が上がるだけだと魅力を話します。
また栽培については「この地域は干拓地なので、一期作目の収穫後は雨水だけでほとんど放置しても問題はありません。夏時期に初期生育が進むので、干ばつという心配もありますが、そもそもお金をかけていないので、多少収量が少なくても問題はありません」と下屋さん。
脱穀性能は自脱型コンバインと遜色ない、汎用コンバインDRH1200A
今回、下屋さんが実証に参画した理由に、クボタの最新型の普通型コンバインDRH1200Aについて性能を知りたいということがありました。「現在保有している普通型コンバインでは、収穫ロスがあり、脱こく・選別性能が低く、収穫後は粗選別を実施しています。今回実証で使用しているDRH1200Aは思った以上に脱こく選別性能がとても良く、自脱型コンバインと遜色が無いと感じました。また自動運転は、人手不足の経営に一役買ってくれると考えていています。今回見させていただいて、安全面にもきちんと配慮がされており、安心して収穫を任せられることがわかりました」とDRH1200Aについて評価します。今回1回目の収穫前に実施しているドローンによる可変施肥については「元々コストをかけずに栽培する技術として始めた“再生二期作” なので、“追肥”という投資についての費用対効果は、今回の実証で結果を見てみたいと考えています。今日刈り取った稲株をみると、例年と違い稲株が青々としていたので、肥料は効いていると感じました」と次回の収穫に期待を寄せています。
DRH1200Aで収穫したモミの搬出
収穫したモミの選別を確かめる下屋様
クボタ技術顧問の解説
株式会社クボタ 技術顧問 森 清文
再生二期作で、活躍するクボタの農業機械について
鹿児島県でのシステム化実証試験についてメインの課題は“再生二期作”栽培の安定生産技術の構築になります。これは、近年、話題になっているコメ不足について、効率的な増産対策技術はないかという視点で、鹿児島県で数年前から取り組まれている再生二期作に着目したものです。品種は、鹿児島県育成品種の「なつほのか」を使用しました。「なつほのか」は、「コシヒカリ」に比べて、生育が旺盛で、多収が期待できる品種で、再生二期作に適している品種と判断したからです。
そこにクボタはさらなる収量アップと、効率化を目指し、再生二期作ではあまり実施されてこなかった追肥作業を積極的に取り入れ①KSAS衛星リモートセンシングデータ活用によるドローン可変施肥作業、②普通型コンバインDRH1200Aや、自脱型コンバインDR6130Aを使用した場合の作業効率性評価の2点を提案し、スマート農業へと発展させています。
KSASの衛星リモートセンシングによる変施肥で二期作目の収量アップを狙う
再生二期作は、1回目を収穫した稲株をそのままにしておくと、自然に次の稲が実り、それを収穫する技術ですが、当然二期作目については収量が低下します。そこで、地域の再生二期作ではあまり実施されてこなかった追肥作業を積極的に取り入れ、今回は、一期作目の収穫前に衛星から取得したデータでリモートセンシングを行い、KSAS上で施肥用のメッシュマップを作成、ドローンによる可変施肥を行いました。収穫前のほ場なので、ぬかるんだ状態のため、ドローンでの散布が非常に有効であったと感じています。
また、一期作目の収穫前の追肥散布については、玄米中たんぱく含有量が上がらない時期で、なおかつ収穫後に再生株がきちんと生育する時期を見越して収穫の2週間前に行っています。また、実際、追肥作業を実施された下屋様からは、「収穫時期は非常に忙しいので、収穫前2週間のドローン散布なら、非常に効果的で、労力分散になり、作業は十分可能」とのご意見をいただきました。
完全自動運転を実現したDRH1200Aでオペレータの負担軽減
自動走行が稲株にダメージを与えずに刈り取ることが期待できると、収穫には自脱型、普通型2種類のロボットコンバインを用意しました。注目は、新しくなった普通型コンバイDRH1200Aです。クボタのアグリロボコンバインは、形状やモミ排出のタイミングを適切に判断し、効率的な収穫作業を可能にする“匠刈り” が特徴です。自脱、普通型共に自動運転が可能ですが、普通型DRH1200Aはオペレータは搭乗せずに完全無人状態で作業ができるため、さらなる負担軽減につながります。また、以前より普通型コンバインは収穫ロスが出やすいと言われていたのですが、改良を重ねた結果、収穫ロスはかなり削減されています。
再生二期作は、“再生” という言葉があるように、株自体がまだ生きており、稲の体内には栄養が残っていますので、収穫時にできるだけ高く刈り取ることができれば、稲の活力を残し、二期作目の生育につなげることができます。農研機構の研究では、地上から40cmが最適とされています。今回の実証では、自脱型と普通型で約20cm~30cmと同じ高さに合わせて収穫を行いましたが、普通型コンバインであれば、40cmでも刈り取ることができるため、刈高さによる生育の変化については、次年度、条件を変えて調査を行う予定です。
衛星リモートセンシング画像(SRVI値) 6月5日撮影(左)
リモートセンシングを基にKSASで作成した可変施肥マップ(基準N5kg)(右)
T30K(下屋様所有機)での肥料散布
監視の下、無人自動運転で収穫が行える普通型コンバインDRH1200A
普通型コンバイン高さ20cmで刈り取った稲株
オペレータが必要ではあるが、自動運転アシスト機能で作業が行える自脱型DR6130A
自脱型コンバイン高さ20cmで刈り取った稲株
自脱型コンバイと普通型コンバインの[選別性能の比較]
普通型コンバインでは、枝梗(しこう)がやや長く残るものの、自脱型コンバインと比較して、脱穀ロス・選別性能はほぼ同等程度
自脱型コンバインDR6130Aで収穫したモミ(左)と普通型コンバインDRH1200Aで収穫したモミ




