6月11日、鹿児島県さつま町にて、全国農業システム化研究会に係る「ザルビオの衛星データを用いた水稲全量可変施肥の実演会」が開催されました。当該地区では、水稲の生育ムラ・収量のばらつきが長年の課題で、倒伏状況等をもとに対策を行ってきましたが、ほ場内のムラの改善は難しい状況が続いていました。課題の解決に向け、衛星データをもとにほ場内の生育ムラを解析したザルビオ®フィールドマネージャー(以下ザルビオ)のマップに着目。ザルビオのデータをKSASにインポートして作成した可変施肥マップで田植同時可変施肥を実施し、生育、収量の平準化や減肥の効果を実証します。
実証担当者の声
鹿児島県北薩地域振興局
農林水産部 農政普及課 さつま町駐在
農業技師
竹ノ内 愛香音 様
地区の課題である、生育、収量のばらつき
さつま町の佐志地区は、ほ場整備された30a区画のほ場が広がる一方で、小区画の変形田も多く点在する中山間地域です。地域の農業の課題のひとつに、収量の平準化があります。
収量が安定しない理由として、近年の猛暑による影響で出穂時期が早まり、穂が高温にさらされて高温障害が発生していることが考えられます。また、高温障害の他にほ場の地力ムラが考えられ、毎年同様の施肥管理を行っていても、収量が安定しないほ場があります。そこで、可変施肥を行い、生育ムラを軽減することで収量の安定に繋がることを期待して、今回の実証に取り組んでいます。
本日は、ザルビオの衛星データから生成されたほ場の地力マップをもとにした可変施肥マップをKSASにインポートし、可変施肥対応の田植機で、田植えと同時に可変施肥を実施しました。
地力データをもとにした可変施肥で生育、収量を平準化
慣行区では、実証農家の慣行の作業体系である基肥一発肥料を40kg/10a施用しています。実証区では、ザルビオの地力マップをもとに生成されたKSASの可変施肥マップを使用して、基肥一発肥料40kg/10aを5段階に分けて可変施肥しています。慣行区、実証区ともに、無人仕様のロボット田植機を使用しており、オペレータによる操作や植付技術の差が無く、設定通りの正確な植付や施肥作業を行っています。
実証区における可変施肥の効果として、ほ場内の生育ムラが軽減することで収量の安定につながると期待しています。また、地力に応じて必要な量だけの施肥を行うことができるので、化学肥料の低減にも繋がると期待しています。今後は、生育調査や出穂期調査、収量調査を行って実証区と慣行区で、生育の差や収量にどのような差が見られるか検証していきます。
肥料を投入し、可変施肥の準備を行う
施用する肥料は、基肥一発型肥料 一発イネリッチ・晩生用
植付精度や田植機の操作に差がでないよう、無人仕様のアグリロボ田植機(NW8SA-PF-A)を使用
可変施肥マップにしたがって行われる可変施肥。ほ場内の場所により、自動で施肥量が変化する
実証関係者の声
BASFジャパン株式会社
アグロソリューション事業部
マーケティング部 ザルビオプロダクトマネージャー
阿部 明香 様
衛星データを解析してほ場内の生育の強弱を相対化
今年からKSASとの連携が始まったザルビオは、ドイツのアグリテックベンチャーからスタートした企業で、主にAIと衛星データを使った作物の生育診断や予測機能のソリューションを提供しています。ザルビオでは過去から現在までの衛星データを解析し、ほ場内の生育のムラ、生育の傾向を示す地力データのマップを生成します。マップではほ場内の生育の強弱を相対化し、5段階にゾーニングして解析をしています。マップから施肥の指標を掴むことができ、生育の平準化や減肥へ向けた作業が可能となります。
KSAS連携で可変施肥のデータに活用
KSASとの連携によるメリットの1つが、この実証のように前年の収量データやリモートセンシングのデータがなくとも、ザルビオのデータとKSASを連携することで田植同時可変施肥が可能になることです。収量の平準化や収量アップ、減肥などを目指して新たに可変施肥を始める際のデータとして活用いただける、ということです。ザルビオのデータは随時アップデートしており、次年度以降も活用していただけます。KSASを活用して年間の栽培計画を立てて実行し、品質や収量の結果を出し、振り返りを行って次年度に繋げるサイクルに、新たな判断材料としてザルビオも取り入れることで、データを活用するスマート農業をさらに進化させることが可能となります。
あらかじめKSASに登録しているほ場をザルビオにインポート。ザルビオの地力マップは、5段階で相対的にほ場内の生育のムラが表示されます
ザルビオの地力マップを元に作成された可変施肥マップをKSASに取り込み、可変施肥マップを作成。KSASの可変施肥マップは、画面上で5段階に濃淡が付けられ、自動的に施肥量が設定されます
KSASの可変施肥マップのデータをクボタの可変施肥対応田植機で受信することで、可変施肥田植作業が可能になります
生産者の声
農事組合法人 夢希耕あながわ
代表 佛渕 澄男様
経営内容
経営面積30ha
水稲23ha(ヒノヒカリ、あきほなみ他) 大豆3ha 小麦8ha
さといも1.3ha 他
地力マップを確認し、改めて地力の違いを実感
実証を行っている辺りは区画整備をしてからかなりの年月が経っており、生育や収量に差を感じる部分がありました。ザルビオのマップを見て、1枚のほ場の中でもずいぶん地力に差があるということを実感しました。本日、データに応じた可変施肥を行ったことで、生育状況や収量が揃ってくるのではと期待しています。
データを活用し、この地の農業を次へとつないでいきたい
可変施肥を行うために、今回KSASでほ場登録を行って実証以外の作業にも活用しています。私たちの法人では、以前、他の営農管理システムを使っていたこともあり、事務のスタッフも特に操作に難しさを感じることなくスムーズに使えています。
佐志地区は、平地は区画整備されておりますが、山手に行くと中山間でほ場の維持が大変なところが多数あります。面積が10aとか、小さいところでは1.5aのほ場もあります。小さなほ場や管理が大変なほ場も守りながら、次の人たちが少しでも楽に作業や経営ができるように、スマート技術を学び活用していくことで、この地域の農業を次の世代へとつないでいきたいと考えています。
クボタ技術顧問の解説
株式会社クボタ
担い手戦略推進室
技術顧問 森 清文
可変施肥による施肥量の違いを確認
本日の実演では、ザルビオの地力データから生成された可変施肥マップをもとに実証区で行われた可変施肥が、慣行区での通常の施肥に比べて、どのくらい肥料の落とし込み量に差が出るのかを注目していました。可変施肥を行うので落とし込み量は少なくなるという想定をしておりましたが、作業を終えて残った肥料を計量したところ、慣行区の施肥に比べて実証区の可変施肥は窒素量で0.4~0.5㎏/10a落とし込み量が少なくなっていました。大きな差ではありませんが、概ね事前のデータから想定していた範囲内で可変施肥ができています。
前年度の収量コンバインのデータがない場合も、ザルビオの地力マップを元に作成した可変施肥マップをKSASと連携し、クボタの可変施肥対応田植機で作業することで効率的な可変施肥が可能になります。
実証農家で従来から栽培している鹿児島県育成品種である晩生の良食味品種「あきほなみ」で調査を実施
設定は栽植密度60株/坪で植付け。箱当たり乾モミで230g撒きの密播。掻き取り本数の設定を調整しながら作業を行い、株当たり7、8本になるよう調整
様々なポイントに注意して調査の精度を高める
移植以降、収穫までの流れの中で注意して見ていきたいポイントは、植付けの状態です。作業後のほ場を実証農家の皆様と確認したところ、無人仕様のアグリロボ田植機による作業で非常に精度良く植え付けられていることから今後の安定生産に向け、ひと安心したところです。
それから、今回の実証に用いている「あきほなみ」は晩生品種ですので、生育一発型肥料の肥効が最後までしっかり効くのか、という点にも注意したいと思います。もちろんザルビオのデータを用いて可変施肥を行った実証区と、慣行区の生育の差については、鹿児島県北薩地域振興局農政普及課の皆様、実証法人の皆様と一緒に、段階を追って生育調査を行い、最終的に収量、品質調査まで実施して、実証の精度を高めて行きたいと思います。
作業に差が出ないよう、アグリロボ田植機NW8SA-PF-A(無人仕様)を、実証区、慣行区ともに使用。作業後のほ場を確認したところ植付精度も高く、施肥も正確でした
植付作業では、アグリロボ田植機の「匠植え」機能が力を発揮。きれいな四角に見えるほ場も実際は若干、台形でしたが、「匠植え」機能により、ほ場の形に合わせて植付けの条数を判断しながら作業が行われました