近年の温暖化の影響で、水稲の登熟期間にこれまでにない高温が続くなど、気象の変化が激しくなっており、稲の栽培にはよりきめ細かな管理が必要になっていますが、施肥管理においては、今では一般的になった一括肥料よりも、必要な時期に必要量を追肥する分施体系の方が、気象や生育に応じた管理には適しています。
 一方で、追肥量の判断には知識と経験が必要となるため、福井県では、新規就農者など栽培経験の浅い農業者でも施肥診断が可能な
「空撮画像(センシングドローン)を活用した生育診断に基づく施肥管理の実証」に取り組みました。

目次

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実証担当者の声

福井県農業試験場
次世代技術研究部スマート農業研究グループ (※)
主任研究員 藤田 純代 様
(※)2024年4月現在 福井県 福井米戦略課 市場戦略グループ所属

 生育期間中の施肥作業は非常に労力を伴うものの、激しい気象の変化に対応するためには、生育量に応じたきめ細やかな施肥管理が必要となる中で、近年ではスマート農業の発展により効率で省力化が可能な施肥管理が可能となっています。
 そこで、令和5年度の全国農業システム化研究会において、2種類のドローン(センシングドローンと散布用ドローン)を活用した施肥管理技術の実証を行いました。

スマート農業を活用した精密な施肥管理を検証

 生育期間中の施肥作業は非常に労力を伴うものの、激しい気象の変化に対応するためには、生育量に応じたきめ細やかな施肥管理が必要となる中で、近年ではスマート農業の発展により効率で省力化が可能な施肥管理が可能となっています。
 そこで、令和5年度の全国農業システム化研究会において、2種類のドローン(センシングドローンと散布用ドローン)を活用した施肥管理技術の実証を行いました。

全国農業システム化研究会実証課題
空撮画像を活用した生育診断に基づく施肥管理の実証

①センシングドローンを用いたハナエチゼンの生育量推定モデル
ドローンの空撮画像から得られるデータから生育量を推定
②T30Kを活用したハナエチゼンの分施栽培による現地実証調査
現地実証【稲(ハナエチゼン)栽培による分施栽培】
③散布用ドローンを活用した大粒尿素散布にかかる最適条件

①センシングドローンを用いたハナエチゼンの生育量推定モデル

■センシングドローンを用いたエチゼンの生育量推定モデル
[藤田さんコメント]
マルチスペクトルカメラで撮影した画像から得られる植生指数は植物の生育量の違いを詳細に可視化することが可能です。画像から穂肥量の診断ができないかと思案し、2021年~2023年にかけて研究を行いました。
始めに、空撮画像から得られる植生指数などのデータを用いて、ハナエチゼンの幼穂形成期の生育量式を作成し、必要となる穂肥量(表1)の設定しました。

画像から生育量の診断を可能にするセンシングドローン

空撮画像データ(参考)2021年6月25日撮影

■ハナエチゼンの生育量に応じた適正穂肥量指標
[藤田さんコメント]
ハナエチゼンの収量目標を 600 ㎏ /10a とすると籾数は30,000 粒/㎡以上必要です。一方で 33,000 粒/㎡を超えると倒伏の危険性が高まるため、適正籾数は 30,000~33,000 粒/ ㎡であることが分かりました。 その適正籾数を確保するための成熟期の稲体の窒素吸収量の目標は11~13g/㎡です。(図1)成熟期の窒素吸収量を適正値(11 ~13g/㎡)とするための穂肥量について幼穂形成期の窒素吸収量ごとに図示しました(図2)。この図を基に、幼穂形成期の窒素吸収量および生育量(草丈×茎数×SPAD)ごとの適正な穂肥量を(表1)に整理しました。

②T30Kを活用したハナエチゼンの分施栽培による現地実証調査

[藤田さんコメント]
①の生育量推定モデルを基に、2023年に分施栽培の経営評価の現地実証を行いました。

実証で使用した大容量で粒剤散布が可能な、クボタ農業用ドローンT30K

(表2)現地実証の施肥設計

空撮[センシングドローン]による穂肥量診断(※実証農家の付近には空港があるため空域制限がかかり、高度45m以下で撮影しているため、1ha15分の所要時間がかかっています。通常100mの高度1ha3分で作成が可能)

(図4)空撮[センシングドローン]による実証ほ場の空撮データ

生育量推定モデルを用いた推定生育量と穂肥診断(図4と連動)※上部(表1)参照

[藤田さんコメント]
2023年産の福井県のハナエチゼンは初期生育が悪く、茎数・穂数・籾数不足でかなり収量が低下しました。しかしながら生育量推定モデルを基に分施栽培を行った実証区では籾数が確保できたため慣行区より1割程度増収しています。登熟歩合が低下して収量レベルは低いですが一括肥料に比べて分施が高かった結果となっています。(図5)収量増加による売上増加および一括肥料による経費削減効果が大きく影響し、売上総利益は10aあたり12,800円増加しました。(表3)
(散布用ドローン使用面積:141ha(水稲64ha、大麦53ha、大豆24haの経営体で実証)

(図5)現地実証の実収

(表3)センシングに基づく分施体系による経営評価

③散布用ドローンを活用した大粒尿素散布にかかる最適条件

[藤田さんコメント]
 大粒尿素はコーティングが無く、高温多湿条件下(30℃、湿度75%)では1分後から吸湿が始まり、3分後には肥料の表面がベタつくようになり、5分後には肥料が固着します(図6)。ドローンで施肥する場合、肥料が吸湿すると作業が困難になり、機械の損傷に繋がり、最悪の場合散布ができなくなります。そこで、高温多湿条件下での尿素の吸湿スピードを測定するとともに(表4)、水稲の穂肥期間内における好適条件をまとめました。

(図6)大粒尿素の吸湿の様子

[藤田さんコメント]
 穂肥散布期間(6月20日~7月25日)の過去3年間(2021~2023)の気象データから 肥料が吸湿しにくい最適な条件を調べました。気温が上がれば相対的に湿度は下がるので、最適な条件は降雨のない日かつ午前9時から午後6時までの時間帯が好適条件であることが分かりました。(表5)

(表5)福井県における穂肥期間(6月20日~7月25日)の好適時間

[藤田さんコメント]
ドローンによる大粒尿素の効果的な作業時間を基に、ドローン1台当たりの作業可能面積を算出しました。1日あたりの作業面積は12ha程度で期間内可能日数から1台あたり36ha程度散布可能です。(表6)

(表6)ドローンによる水稲穂肥(ハナエチゼン)の作業可能面積

クボタ担当者の声

株式会社北陸近畿クボタ 福井事務所 福井営業部 
課長兼ソリューション推進部担当課長 坪田 英和 (写真左)

株式会社北陸近畿クボタ 坂井営業所
稲木 大介(写真右)

防除剤や除草剤などは、粒剤でも液剤でも規格が明示されていますが、肥料は大きさも比重もバラバラです。品目や栽培毎に使用している肥料が違うため、データを取りながら、明確な指標を作り、普及につなげることを目標に掲げ、実証調査に協力しました。また、使用前に講習会を実施するなど安全対策をしっかり行いました。

▲安全の講習会を行う坪田課長

お客様のニーズに応えたドローンの提案を展開しています

 今回は施肥の実証ということもあり積載量が多いT30Kを使用しています。T30Kは、肥料の散布幅が4~10mで、最大積載量が30kgのドローンとなっており、1バッテリで2haの連続作業が行える高能率タイプです。
 また、2024年にはより安全に、使いやすくなったT25Kが発売されました。吐出量が増えた為、今まで使用できなかった、液剤や粒剤も使用できるようになり、よりお客様のニーズに応えたドローンとなっています。

ドローンはマルチユースを実現したスマート農機になりました

 福井県ではドローンの普及率は高いですが、およそ99%の方が防除や除草剤での活用です。私達もそうだったのですが、ドローンでの肥料散布は難しいイメージがありました。しかしながら、全国農業システム化研究会現地実証調査で
普及の方と一緒になって調査を行い、ドローンでの肥料散布が実証されたことで、お客様への提案の幅が広がったと感じております。
 様々な作業がこなせるマルチユース型の機械需要は高く、施肥作業ができるのであればドローンは農家の皆様の要望に応えた機械となり、今後お客様の経営の課題解決に繋がっていくことを期待しています。

資料ダウンロード

SR202405_福井県坂井市

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