熊本県阿蘇市では、地域の担い手不足に貢献する技術として、令和5年度より全国農業システム化研究会現地実証調査において自 動運転技術を活用したトラクタと田植機の協調作業の現地実証調査を行っています。実証農家である(農)水穂やまだでは、規模拡大 に対応する技術として、ほぼ全面積密播栽培を導入しており、さらなる省力・効率化の技術として、アグリロボシリーズの活用に期待を寄せています。実証調査の一環として5月2日に密播苗を使用した無人仕様のアグリロボ田植機と有人機を組み合わせた協調作業が行われました。

目次

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生産者の声①

熊本県阿蘇市
農事組合法人 水穂やまだ 中西 洋介 様
[経営面積]75ha水稲47ha、大豆7ha、WCS用稲15ha、さといも1ha

春作業の省力化と新たな設備投資を抑えるために密播を導入しています

 地域では高齢化が進み、毎年請け負う面積が増える一方で、人手が足りないことが課題となっています。面積が増えるにつれて苗箱の枚数が増え、現状の育苗ハウスの規模を維持するにはどうすればよいかと考えていたときに、クボタが発信している情報誌等で苗箱数を減らせる密播を知りました。「これしかない」と考え6年前より規模拡大に対応するため密播を導入しています。
 実際経営に組み込むと、普通移植で10aあたり17~18箱だった使用箱数が、密播だと10箱に削減することができ、ハウスを増築することなく栽培面積を増やすことが可能になりました。また、使用する苗箱数が減った分、苗運びも楽で、作業時間が格段に早くなり、しかもコストも削減することができるので、密播は良い技術だと思います。定植後は普通移植と管理が同じで収量も遜色無いため、現在では特別栽培している品種以外は、全面積密播で栽培を行っています。

自動運転で密播苗の移植作業を行うアグリロボ田植機NW8SA

密播の苗づくりで気をつけていることは水管理と温度管理です

 密播栽培で特に気をつけていることは、苗作りです。密播は苗箱あたりの播種量を増やし、苗の密度を高める技術なので、慣行苗よりも細くなります。そのため、水を深くしたり、ハウス内の温度が高すぎると苗が傷みやすくなります。適正な水管理を行い、被覆シートをかけている期間も含めハウス内温度が高くなりすぎないように注意して育苗を行っています。
 一度、乾籾300gで育苗したことがあったのですが、播種量が多いと苗の密度が上がり酸欠状態になるようで苗の傷みが激しく失敗が多く見られました。そのため、播種量を減らし250gにすることで安定した密播苗ができるようになりました。

将来を見据えてアグリロボの実証調査に参画しています

 この地域の農地を耕作放棄地にしないことが私の目標だと考えています。そのためには若い人材の確保と機械化を進めることが必要です。自動運転のトラクタや田植機は、そういう意味でも今後活躍する技術だと高い関心を持っており、2023年よりアグリロボトラクタや田植機を活用した現地実証調査に加わっています。
 今日はアグリロボ田植機と有人の田植機の協調作業を行いました。アグリロボ田植機は植付精度がとても良いので、決めた枚数通りにピッタリと植えてくれます。普段苗箱は、10aあたりに0.5箱程度余裕を持って作っているので、余分に苗を作らなくて良くなることは、経営的にもメリットに感じます。また、重なりが少ないことは今後の生育にも良いのでアグリロボは本当にすごいです。

播種量250g(乾籾)の密播苗を育苗している水穂やまだの育苗ハウス

4月10日に播種した密播苗

実証担当者の声

熊本県県北広域本部 
阿蘇地域振興局農林部農業普及・振興課
技師 川端 公己 様

無人運転のトラクタや田植機は課題解決につながります

 阿蘇地域では担い手としての営農法人が20組織ほどありますが、地域の高齢化に伴い、法人に農地が集積して、1経営体あたりの面積が増えていることが現状です。法人の中でも働き手の年齢がぐっと上がってきており、担い手が減ってきている状況で今後どのように農業を行っていくが課題となっています。将来を見据えた時に、無人運転のトラクタ、田植機の活用が課題解決の一つの手段になると考え、2023年より全国農業システム化研究会において「スマート農機を活用した協調作業による水稲作の効率化・省力化の実証」をテーマに現地実証調査を行っています。

より現場作業に近い状態で実証計画を立てています

 令和5年度の実証調査では、代かきと田植作業において協調作業を行いました。田植作業では慣行の作業体系(有人機、オペレータ1名)に無人機を導入することで、10aあたりの作業時間が削減でき、人数あたりの作業面積の増加が見込めることが実証されました。有人機のみですと、オペレータ1人で1台しか動かすことができませんが、アグリロボを導入することで、1人で2台動かせるので、オペ
レータが1人減ることは効率・省力化に繋がります。
 継続して行う令和6年度の実証調査では、基肥散布、耕起、代かき、田植えに加え、倉庫からほ場までの運搬など、ほ場外の作業も設計に組み込みました。実際の現場でかかる時間を試算することで、導入した際のイメージがつきやすく、より普及に繋げていければと考えています。

有人機と無人機の協調作業では2人の補助者と1人のオペレータで作業を行った

アグリロボ田植機と密播を組み合わせることでより省力化に繋がります

 実証農家である水穂やまだは、積極的にスマート農業を取り入れた米づくりを行っているとても魅力のある法人です。そういった法人と手を組むことで、波及効果も生まれ地域にどんどんスマート農業が広がれば良いと考えています。水穂やまだでは水稲作のほぼ全面積を密播で取り組まれているため、実証でも密播苗を使用しました。今年行った作業でも30a区画のほ場で苗補給は3回でしたので、密播苗を使用することで、苗補給の回数が格段に少なくて済み、かなり省力的に感じました。
 将来的に限られた労働力で誰が農業をしていくか、解決方法の1つとして無人仕様のトラクタや田植機とさらに低コスト稲作も組み合わせて導入を検討してもらいたいです。

アグリロボ田植機で移植したほ場において、植え付け開始と終了場所が揃っているか確認

アグリロボ田植機で移植したほ場において、植え付け開始と終了場所が揃っているか確認

令和5年度10aあたりの使用箱数

クボタ技術顧問の解説

株式会社クボタ担い手戦略推進室
技術顧問 金森 伸彦

アグリロボの効率的な活用方法を実証調査で明らかにしていきます

 今回実証で使用している、トラクタと田植機は、どちらも自動運転が行える無人仕様のアグリロボです。トラクタの無人仕様は対応するインプルメントが増え、ロータリ耕うん、代かき、播種機等作業の幅が広がっています。今回は肥料散布・耕起・代かきの3作業において自動運転の作業効率の検証を
行っています。
 田植機では、隣り合ったほ場で1人のオペレータが有人機で移植作業を行いながら、無人機を監視する実証を行いました。単純に考えれば、オペレータ1人で2台使えば、効率が2倍になりそうですが、実際の作業ではそうではありません。自動運転のためのマップ作成や、乗り換え時間があるので、実際どれくらいの効率アップが図れるかを今回の実証を通して確認したいと思います。できるだけ2倍に近づけていくためにはどういった工夫が必要なのかを把握して、導入されるお客様に対してノウハウとしてお伝えできればと考えています。

4月23日に行われたアグリロボトラクタのMR1000Aによる施肥の協調作業の実演会

アグリロボ田植機と密播の組み合わせは自動運転の能力を向上させます

 アグリロボ田植機は、自動運転と言っても当然苗の積み込みは人力作業になり、その間、自動運転は止まります。面積当たりの苗箱数が削減できる密播を導入することで、苗補給の回数が減るので、アグリロボ田植機との組み合わせは、自動運転の能力を向上させる良い手段だと考えています。またアグリロボ田植機ですと、捨て苗防止機能や、条間調整機能などにより、苗をかぶせて植えることがなく、無駄なく植え付けが可能です。全く予備苗を用意しないわけにはいきませんが、面積が大きくなれば、1%違うだけで予備苗の箱数もかなり違ってきますので、コスト削減面でもアグリロボ田植機のメリットは大いに出
てきます。

無理のない播種量で密播を初めて省力・低コスト化を感じてもらえればと思います

 クボタでは湛水直播や乾田直播の技術提案も行っていますが、新たな栽培体系に取り組むにはハードルが高いという方のために、今の移植体系で省力・低コスト化を図る技術として密播を提案しています。クボタでは基本的にどの田植機でも密播苗の移植が行えます(※)。水穂やまだは密播苗を乾籾で250gと通常の倍近い播種量でされていますが、無理のない程度から播種量を増やすところからスタートして、お手持ちの田植機を使って試していただいて、箱数が減ることによる省力・低コスト化を感じていただければと思います。
 西日本での密播栽培は、東日本と比べると気温が高い地域での育苗になります。東日本とは違った育苗管理が必要になりますが、きちんとポイントを抑えて育苗を行えば西日本でも密播栽培は行えますので、もし興味があればぜひご相談いただければと思います。
(※)田植機の設定によっては、スムーズに横送りされなかったり、爪の間に根が詰まってしまうことがあります。この場合は密播キットの装着をおすすめしています。

NW8S-GS(左)とアグリロボ田植機NW8SA(右)との協調作業

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SR240502_熊本県阿蘇市

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