新潟県三条農業普及指導センターでは全国農業システム化研究会の令和6年度の現地実証調査において、乾田直播導入による輪作体系モデルの実証を行っています。実証調査では①大規模経営体における春作業の労力軽減、②乾田直播栽培導入による作期分散および異常気象リスクの回避、③大豆連作ほ場における復田に向けた栽培や機械体系を検証します。実証調査の一環として、4月23日、実証農家である農事組合法人しらさぎのほ場において自動操舵付きトラクタとスガノ(マスカー)の播種機を用いた播種作業の現地検討会が行われました。
実証担当者の声
三条地域振興局 農業振興部 三条農業普及指導センター 普及課
課長代理 佐久間 英美 様
様々な課題に対応した乾田直播の関心度が高まっています
三条市は新潟県の中央に位置し、その中で栄地区では基盤整備が進んでおり、大区画ほ場が多いエリアとなっています。近年地域の大規模経営体の中で、春作業の省力化が図れる技術として乾田直播への関心が非常に高まっています。また2023年、新潟県では普通移植栽培において出穂期後に高温が続き、白未熟粒の発生など品質低下が問題となりました。乾田直播は作期分散が行えるため、異常気象による品質低下のリスク回避が期待できることもあり、三条農業普及指導センターでは、令和6年度全国農業システム化研究会の課題として乾田直播の現地実証調査を行っています。
乾田直播は田畑輪換に適した技術です
水田を活用した畑作物の連作ほ場の復田に適した技術検証として、今回の実証では、大豆後のほ場で乾田直播を行っています。
畑地化しているほ場は、透水性を良くするため耕盤が薄く、ほ場に水を入れた際に代かきや田植え時に機械が潜る可能性があります。乾田直播であれば、機械の沈み込みを心配することなく播種床づくりや播種作業が行えるので、田畑輪換に適していると考えています。
今回の播種作業は地域の生産者の方に乾田直播栽培を実際に見ていただける良い機会だと思い、おもに水稲と畑作物を輪作体系で行っている生産者に向けた現地検討会を開催しました。地域では大豆を連作している生産者の方も多く、ブロックローテーション体系の再構築を促す国の施策の影響もあり、予想より多くの生産者にお集まりいただきました。今回の実証では乾田直播の効率性や収益性などをしっかりと確認し、地域に普及をしていけたらと考えています。
自動操舵を搭載したクボタトラクタMR1000とスガノ(マスカー)のグレーンドリル
乾田直播栽培に使用するこしいぶきの種子
生産者の声①
農事組合法人しらさぎ
代表理事 猪本 郁夫 様
[経営面積]60ha(水稲35ha、大豆25ha)
乾田直播はうちの土壌条件に合った技術
私たちの法人は、かつてほ場整備を進める中で地域の有志が集まって設立した組織です。現在は水稲と大豆の転作を軸に経営を行っていますが、水田転作で畑地化したほ場について5年に1度復田を促す国の施策にどう対応するかが大きな課題となっています。うちが耕作している水田の一部では、大豆から水稲栽培に切り替えた場合にトラクタや田植機がぬかるんで入れないところがあります。そういった場所では代かきをして田植えを行う従来の栽培が難しく、何か方法はないかと色々と調べていたときに、乾田直播という技術を知り、普及の方と相談し乾田直播の実証調査に参画することとなりました。
情報交換を行う実証関係者
グレーンドリルは作業速度が速く、効率化を図ることができます
播種前のほ場準備として、昨年の秋、大豆収穫後にスタブルカルチで残渣物をすき込み、春になってレーザーレベラーでほ場の均平化を図りました。大豆を3年間作付けしていた実証ほ場では、土塊を細かく砕くことができ、播種前のほ場準備がきれいに仕上がりました。
播種作業は、自動操舵が付いたトラクタとグレーンドリルをクボタからお借りして行いましたが、作業時には種子の落下状況や播種深、大豆残渣の影響など、細かい部分も注意深く確認したつもりです。また、高速での播種作業には大きな魅力を感じるとともに、初めて見た自動操舵のトラクタについては、自動でまっすぐに進むのであれば、後ろの作業状況を確認しながら走行できるので初心者に任せやすく、オペレータの負担軽減にもつながるものと考えています。
地域を守るために規模拡大は必要。新しい技術を導入しながら規模拡大に対応します
地域のつながりや生産性を維持していくためには、200ha、300haという広域エリアをひとつの組織が軸になって運営を行っていくことがこれからの地域農業にとって大切になっていくと感じています。規模拡大を図る中で、乾田直播のような効率的な技術はこれから必要です。新しく導入する技術には、期待をしている反面不安も感じていますが、ひとつひとつクリアして、うちにあった技術体系を見極めて行きたいと思います。
自動操舵が付いているので、手放しでも播種が可能
生産者の声②
農事組合法人サンファーム大戸
代表理事 中川 巧 様
乾田直播は今後必要になる技術なので情報収集していきたい
代かきや育苗が不要な乾田直播の導入は、春作業の省力化やコスト削減に繋がる技術だと考えています。今年に入ってテレビで乾田直播を取り上げた番組が放送されていて、法人内でも乾田直播の時代が来るので情報収集や勉強をしようと話があり、今回良い機会でしたので、現地検討会に参加しました。
これから、高齢化に伴って農業を辞める方たちの土地が集積して、さらなる規模拡大が予想されます。今回現地検討会で使用していた作業速度が速い播種機は、人手をかけずに1ha1時間で終わっていましたので、移植と違ってかなりの効率化が図れると感じました。ほ場によって土壌条件なども変わってくるので、コスト削減と効率化、両方が図れる技術を模索していきたいと思います。
播種の状況を確認する現地検討会の参加者
クボタ技術顧問の解説
株式会社クボタ担い手戦略推進室
技術顧問 牛腸 眞吾
クボタは機械や栽培面で実証のサポートをおこないます
高齢化の影響で農地が担い手に集約し規模が急激に拡大している法人等では、水稲の一般的な移植体系だけでは窮屈に
なってきていると思います。また、自給率向上のため麦・大豆、園芸作物などの栽培も求められており、田畑輪換を考えた時に、畑地からでも復田しやすい乾田直播の必要性、重要性が高まっています。
令和6年度の全国システム化研究会の現地実証調査においては、急激に経営規模が拡大し、大豆栽培にも積極的に取り組まれているしらさぎ様を対象に、乾田直播の導入による経営効果を検証することとしており、機械選定や栽培技術面のサポートをするため実証に参画しています
経営内容に適した乾田直播の方法を選択しましょう
乾田直播の体系や播種機の選定については、ほ場条件や期待する内容に応じて方法を選んでいただければと思いますが、今回の実証では事前にしらさぎ様からお聞きした、ほ場の地盤が弱く沈むところもあるとの情報を参考に、トラクタや播種機を選択しました。
グレーンドリルは条件が合えば、時速8km/hの高速作業が可能であり、また、乾田直播はワンオペ作業が可能なので自動操舵補助システムを組み合わせることで、より効率的で精度の高い播種作業が期待できます。
乾田直播は、播種前にレーザーレベラー等で播種床を均平に仕上げるとともに、ケンブリッジローラによる鎮圧で苗立ちの安定化と漏水防止に努めることが大切です。
不安を取り除けるようしっかりとフォローして成功体験を積み重ねていきたい
乾田直播は新潟県では取り組みがまだ少なく、生産者の中には興味はある一方で不安をお持ちの方もいらっしゃると思いますので、できるだけ大勢の方に、積極的に試していただく機会を作っていきたいと考えています。ソフト・ハード面ともに、しっかりとフォローして成功体験を積み重ねて行くことで、生産者の不安を取り除いていき、普及に繋がって行けば良いと考えています。
播種後は種子の乾燥と漏水を防ぐためにケンブリッジローラで鎮圧
グレーンドリルのホッパの容量は450ℓと大容量
現地検討会では隣接ほ場で、播種と播種後鎮圧作業を同時に実演