農業用ドローンによる大麦の適期追肥作業で生産力向上 お気に入りに追加
ドローンを活用した大麦の追肥作業に関する実証結果を軸に地域の農家へ訴求する実演会を開催
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 福井県は六条大麦の作付面積が約5,000haと全国1位を誇っています。施肥体系は一括肥料が一般的な中、施肥量の適正化による肥料費削減の観点などから分施体系への関心が集まっており、追肥作業を手軽に行える農業用ドローンの活用に期待が高まっています。
 福井県では全国農業システム化研究会において、農業用ドローンの施肥作業の有用性を実証し、そのデータを基にJA福井県芦原支店にて「ドローンを活用した大麦の施肥管理に関する現地実演会」が3月9日に開催されました。

生産者の声①

中瀬農産株式会社
代表取締役 中瀬 忠 様
[経営面積]
水稲40ha、麦30ha、大豆15ha、そば15ha

臨機応変に追肥作業を行いながら収量向上が図れます

 今まで大麦で使用していた一括肥料は必要な時期に効いていたので、追肥作業は必要ありませんでした。しかし、2023年2月には福井県で20℃まで気温が上がるような暖冬になりました。この傾向が続けば、肥料が早く溶け出したり、生育が早まったりと一括肥料が効いてほしい時期がずれてきます。天候が読めず気温の変化が激しい中、臨機応変に対応していくために、生育のステージを見ながら追肥作業を行う分施栽培を取り入れています。分施栽培はひと手間にはなりますが、追肥にかかる肥料は一括肥料よりも安価で、また適期に追肥を行うので収量や歩留まりが良くなりました。

ドローンでの作業は早くて楽です

 麦の追肥作業は、これまで背負動噴などを使って人力で行うため労力がかかって大変でした。かねてから、福井県農業試験場の藤田さんが農業用ドローンでの稲麦の施肥作業や、センシングドローンを活用した稲の穂肥量診断の実証をうちのほ場で行っており、その一環で農業用ドローンを使用して麦の追肥作業も行いました。農業用ドローンでの作業はすごく早くて楽です。施肥量を設定すればピッタリ散布を行ってくれて、周りの生産者にもおすすめできます。

2022年11月10日に行われたT30Kによる麦の追肥作業

生産者の声②

有限会社 竹内農園
代表取締役 竹内 孝輔 様
[経営面積]
35ha: 大麦12ha、大豆12ha、キャベツ4ha、そば1ha

肥料散布が行える農業用ドローンを選択して効率化を図っています

 有機栽培のコシヒカリを直販していて、プラスチックを使用した緩効性の被覆肥料をなるべく使用したくないので分施栽培は効果的な方法だと感じています。分施栽培は追肥の苦労はありますが、その点を農業用ドローンで補うことで軽労化に繋がっています。
 うちでは増える面積に対応し、収益性を上げるためにスマート農業を活用しながら規模拡大を図っています。その中で農業用ドローンを導入する際、機種を小型にするか大型にするか悩みましたが、肥料散布ができる大型のドローンの選択をしたことで追肥作業の効率化が図れて結果的に良かったと感じています。

知識を蓄えることで変化する農業環境に対応することができます

 気候変動や生産コスト高騰と、農業経営を取り巻く課題は色々とありますが、知識が不足していると課題に対応できません。藤田さんの研究に協力している理由は、農業用ドローンの優位性を自分の中でしっかりと確立したかったからです。データを蓄積していくことで、他の生産者にも共有していきたい。逆に、メーカーさんにも結果をフィードバックしていって、スマート農業をもっと有意義に使える世の中になることが大事だと思います。

当日はあいにくの降雪と強風で実演会は中止となったが、室内での研修会と、T30Kの展示が行われた

実証担当者の声

福井県農業試験場
次世代技術研究部スマート農業研究グループ (※)
主任研究員 藤田 純代 様
(※)2024年4月現在 福井県 福井米戦略課 市場戦略グループ所属

実証データを見てもらうことで経営体にあった機械や技術を見極めてもらいたい

 大麦栽培では、被覆肥料を含む緩効性肥料の基肥時一括肥料の体系が主流になり、追肥作業は大半の生産者は行っておりません。
しかし近年の温暖化の影響で適期より前に被覆肥料の成分が溶け出すことがあり、幼穂形成期に肥料不足に陥ることで収量品質の低下が懸念されています。また、資材費の高騰により生産コストを見直す中で、適期に穂肥を行えて、被覆肥料より安価な「分施栽培」が地域の生産者の間で注目を集めています。追肥作業は背負動噴など人力で散布作業をするため、大規模化が進む経営体ではより効率的で軽労化が図れる技術が求められます。
 そこで、ドローンによる肥料散布を生産者へ提案するべく、肥料散布が可能な、農業用ドローンT30Kを使用した分施での大麦栽培の試験に、全国農業システム化研究会の実証課題として2022年から取り組みました。

全国農業システム化研究会実証課題 

大麦の一括肥料脱却による低コスト栽培の実証
~ドローンを活用した省力的な施肥方法の確立~

[目的]

①施肥の散布精度の検証
散布方法の確立:有効散布幅の決定(肥料の種類、インペラ回転数)
②T30Kを活用した分施体系の経営評価
現地実証【大麦のドローンによる分施】

① 施肥の散布精度の検証

[藤田さんコメント]
 ドローンで散布するには積載量を少なくするために、できるだけ高濃度の窒素成分の肥料が必要なので、2種類を用意しました。

実証に用いたドローン、大容量で粒剤散布が可能な、クボタ農業用ドローンT30K

肥料の選定

[藤田さんコメント]
 インペラ回転数を上げることで飛散距離が大きくなる傾向があり、また尿素と比較すると硫安は散布ムラが大きくなります。肥量を調整するためには散布幅と飛行速度に応じてシャッター開度を調整する必要があります。T30Kは散布量を入力すると自動でシャッター開度を調整してくれるため、施肥量を調整する手間がかかりません。

インペラ回転数による散布幅の調査

インペラとは回転式撹拌翼の総称で、T30Kでは粒剤散布装置の円盤のことを指す。インペラ回転数とはこの円盤の回転数のこと。

肥料銘柄ごとのインペラ回転数と有効散布幅 (T30K粒剤散布システム3.0)

②T30Kを活用した分施体系の経営評価 
(実証場所)福井県坂井市 (実証農家) 中瀬農産株式会社

[藤田さんコメント]
 参考として高濃度の肥料を無人ヘリで散布したほ場で、生育、登熟ムラがみられることがありますが、今回の実証では、散布ムラはありませんでした。
 一括肥料より、分施肥料(尿素)のほうが肥料費が安価で、さらに33kg/10a増収しました。また、大麦面積 29ha(令和5年産面積)でシミュレーションしたところ、一括肥料を使用した場合の肥料費と分施肥料(ドローン導入にかかる経費および労務費を含む)にかかる経費とは同程度であり、有効な技術と考えています。農業用ドローンは数年ごとに進化を繰り返しています。農薬散布だけの活用ではなく、自分の経営に役立つ農業用ドローンの使い方を見極めて導入を行ってほしいです。そのために参考になるデータを研究し、指導機関の仲間と一緒に、生産者へ発信できたらと考えています。

作業体系

施肥計画

分施栽培による実収結果

大麦のドローンによる分施体系への転換による費用対効果

クボタ担当者の声

株式会社北陸近畿クボタ 福井事務所 福井営業部 
課長兼ソリューション推進部担当課長 坪田 英和 (写真左)

株式会社北陸近畿クボタ 坂井営業所
稲木 大介(写真右)

ドローンの操作や調整方法を指導し、サポートを行っています

 今回の実証はドローンによる省力的な施肥であったため、積載量が多いT30Kを使用しています。T30Kは、肥料の散布幅が4~10mで、最大積載量が40kgのドローンとなっています。
 実証において北陸近畿クボタでは、ドローンの取り扱いや調整方法の指導などのサポートを行いました。空中散布用の農薬は、散布量や希釈倍率が決まっていますが、肥料は粒の大きさや比重もバラバラで、ドローンでの肥料散布量が不透明でした。今回2種類の肥料で試験を行い、インペラ回転数によって散布幅が変わることがわかり、ひとつの指標ができたと感じています。
 大麦への分施作業につきましては今回のデータを参考に、補助者とともにほ場での散布状況を確認していただきながら散布を行っていただければと考えています。

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