うね内2段局所施肥技術で施肥量を3割削減 お気に入りに追加
ブロッコリーによる2段局所施肥技術の実証で省力・低コスト化を図る
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 佐賀県では園芸作物の農業産出額を888億円へ伸ばすことを目標に「さが園芸888運動」を展開しています。園芸作物の生産拡大を図るためには、省力・低コスト化が重要な課題です。それに伴い、全国農業システム化研究会では、新たな施肥技術による施肥量削減および省力化の有効性について検証を行っています。9月6日、佐賀県農業試験研究センター白石分場において、肥料を約3割減らす技術として期待されている、畝立同時局所施肥機グランビスタによる2段局所施肥技術を用いたうね立て作業と、乗用半自動移植機KP-202による移植作業が行われました。

目次

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実証担当者の声

佐賀県農業試験研究センター 白石分場
露地野菜研究担当 
技師 下古場 稜一 様

重点作物としてブロッコリーの生産拡大を目指しています

  佐賀県では、地域の特性を活かした収益性の高い園芸農業の振興を図ることで、稼げる経営体を増やし、2028年に園芸農業産出額888億円へ伸ばすことを目標にした「さが園芸888運動」を2019年から展開しています。それに伴い葉茎菜類の生産拡大を見据えた機械化の提案及び、高騰する肥料の削減を課題として、令和5年度全国農業システム化研究会の現地実証調査を行っています。また、佐賀県のキャベツの生産が多い地域では高齢化が進み、重労働のキャベツの生産から同じ葉茎菜類である花蕾(からい)が軽く、軽労化が図れるブロッコリーの生産に転換をする動きがあります。そのことから、佐賀県ではたまねぎに次ぐ重点作物としてブロッコリー栽培の推進を行っています。

実証ほ場図

高騰する肥料代の削減に貢献する技術実証を行います

 今年度の全国農業システム化研究会現地実証調査では2つの肥料削減技術で調査を行います。1つ目は実証区①の「セル苗への基肥施肥技術」です。育苗するセルの中に肥料を混ぜ込み、ほ場には基肥を入れない局所施肥の考え方でこちらも肥料削減に繋がります。
 2つ目は実証区②の「2段局所施肥技術」で、うね立と同時に上下層へ同時局所的に肥料を散布する方法です。局所的に施肥を行うことで、肥料を抑えコスト削減を図ります。上層部は初期生育に効果がある速効性肥料を散布。下層部には緩効性肥料を用いることで、生育中期から後半にかけて追肥を行う必要が無くなり、施肥作業の省力化に繋がります。
 実証調査では全層施肥を行った慣行区のほ場と、実証区①、②の技術を比較し、コストおよび労力の低減効果を検証するとともに、収量・品質の調査を行う予定です。

2段局所施肥区 施肥設計図

2段局所施肥 断面図

機械化実証の成績が良ければ大規模農家へ普及が進みます

 9月6日にタイショーの「畝立同時局所施肥機グランビスタ」を使用してうね立て同時2段局所施肥を行いました。前日に降雨があり土壌の水分量が少し多く心配していたのですが、しっかりとうねが形成されていました。また、断面を見た際も上下層に肥料がきちんと散布されており良い機械だと感じました。うね立て後には、クボタの乗用半自動野菜移植機ベジライダーKP-202で移植作業を行いました。降雨の影響で土壌条件があまり良くない中、ほ場に凹凸があっても同じ深さになるように植え付けがされており、非常に高い植え付け精度に周りからも感嘆の声が上がっていました。今回の実証が良い結果になれば大規模農家への推進が行えるので、「さが園芸888運動」に貢献できる機械だと考えています。

うね立て後に乗用半自動移植機KP-202による定植作業を実施

クボタ技術顧問の声

株式会社クボタ 担い手戦略推進室
技術顧問 森 清文

局所施肥で肥料が3割削減されるため、みどり戦略に貢献する技術です

 今回使用しているタイショーの「畝立同時局所施肥機グランビスタ」は、初期生育に必要な速効性肥料を上層部に、下層部に緩効性肥料を同時に入れることで追肥を省略することが可能となり、施肥作業を効率的に実施することができるようになります。また、肥料はうねの中央に局所的に施されるため、全体で肥料を約3割削減することが可能と考えられ、みどりの食料システム戦略に貢献する技術として提案を行っています。実証では対象作物はブロッコリーですが、キャベツやにんじん、だいこん、はくさいなど様々な野菜に応用ができる技術であることから農業経営に大いに役立つものと考えられます。

2段局所施肥区 作業計画

うね高約20cmで立てられたうね

株間約35cmの設定でKP-202によって定植されたブロッコリーの苗

追肥を行わない体系での生育、収量に及ぼす緩効性肥料の効果実証がポイント

 ブロッコリーは外側に大きな外葉とその内側に花茎とよばれる茎部分と、上部に可食部で、つぼみの集合体である花蕾(からい)があります。花蕾はブロッコリー全体に占める割合は少ないため、まずはしっかりとした外葉や茎を維持、生育させる必要があります。このため多くの肥料を必要とすることから最後まで肥料効果を維持することが2段局所施肥のポイントになります。移植直後から初期生育にかけて上層部の速効性肥料がどのような効果を及ぼすか、また、生育中期から後期にかけて下層の緩効性肥料がどのように効果を表すか、生育初期および後半の肥料効果の持続性について、生育調査を実施する必要があります。これにより下層の緩効性肥料の溶出日数や溶出パターン、施肥量をどのように設定するか、より適切なコントロールを目指して、実証を進め、さらに多くの化学肥料削減につなげることが重要となります。今回の実証ではLPS60タイプを使用していますが、まずは肥料の3割削減が可能な技術確立を前提に試験を進めていくこととしています。

KP-202は活着がしっかりするため局所施肥とマッチした機械です

 今回、うね立て後にクボタの乗用半自動野菜移植機ベジライダーKP-202で移植作業を行いました。今日の移植作業を見ても、普通の移植機に比べると、揺れも少なく、うねの高さに応じてしっかりと植え付けを行っていました。初期生育が重要になる2段局所施肥技術において活着のよいKP-202は2段局所施肥技術とマッチした機械になります。

KP-202は自動モンローが選択できるので、凹凸があるうねでも安定し精度の高い植え付けが可能

メーカー担当者の声

株式会社タイショー 開発部
係長 高野 恵輔 様

生産者の意見を反映してコスト削減と高精度な機械の開発を行いました

 「畝立同時局所施肥機グランビスタ」は、群馬県の嬬恋村からの依頼をきっかけに2013~2017年に農研機構と共同開発を行いました。高齢化で少ない担い手に農地が集約し、1経営体に農地が集約され、規模拡大により適期移植をすることが難しくなってきているという課題がありました。また、嬬恋村は雨が多い地域だったため、表層の肥料が流れてしまうという問題もあり、うね内施肥の開発が進められました。
 当初はうね内1ヶ所に肥料を入れていましたが、肥料が多すぎて肥料焼けという現象が起こりました。これを解決するために生まれたのが、生育初期と後期に肥料効果を分散させる2段局所施肥技術です。この技術は農研機構と共同研究を行った際に、キャベツでの実証を行ったところ、従来に比べて肥料が約3割削減できることがわかっています。また現在では、肥料の減少に繋がる技術はみどりの食料システム戦略に貢献する機械であることから、みどり投資促進税制の対象機械としても登録されています。 

GNSSセンサと傾斜角度センサで施肥量を均一に保ちます

 正確に肥料散布する際に問題となるのは、トラクタの速度です。肥料を出すときは、モータの回転で肥料を落としていきますが、トラクタの速度が一定でないと、肥料の薄いところや濃いところができます。それを解決するためにGNSSセンサで位置と車速、傾斜センサで傾斜地作業にも対応することで、施肥量を均一に保つことができるようになりました。

畝立同時局所施肥機 グランビスタGRUNVISTA KUTシリーズ

【①二段施肥用ホッパ】うねの上層・下層部の施肥に対応。工具不要で簡単脱着でき、メンテナンスも簡単。

【③リッジャ】ロータリを用いず、リッジャによって作溝・土寄せを行う簡易耕起方式を採用。

【⑤コントローラ】調量機能 (特許取得済)により上下の施肥量を散布ムラのない、散布精度±5%を実現。

【②ボビンローラ】畝成形はボビンローラによる成形方式。

【④GNSSセンサ/傾斜角度センサ】位置情報を取得、車速と連動。傾斜角度センサで傾斜地作業にも対応。

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