2種の播種技術で、大豆栽培の課題である湿害軽減へ お気に入りに追加
大豆栽培における高速畝立て播種機を活用した湿害軽減効果の実証
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7月11日、埼玉県比企郡鳩山町において、令和5年度全国農業システム化研究会の現地実証調査の一環として、2種の播種技術を用いて大豆の播種作業が行われました。当地域では、ブロックローテーションで大豆栽培に取り組んでいますが、近年、収量が年々低下。谷津田のため、丘陵部からの浸透水により水位が上昇しやすく、播種期が梅雨と重なることで土壌が過湿になり、播種の遅延や出芽不良による生育量の不足が課題となっていました。今回は排水対策の徹底と耕起及び播種様式の違いによる湿害対策を実証し、当地域に適した安定栽培技術の定着化を目指します。

目次

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実証担当者の声

埼玉県 東松山農林振興センター
農業支援部
技術普及担当 加藤 まゆ様

年々収量が落ちている状況を改善するために

当地域は「谷津田」のため、地下水位が上がりやすい地形です。また「粘土質のほ場」で排水性があまり良好ではありません。そのため大豆栽培においては湿害対策が大きな課題です。生産者の方々は大変苦労されており、実証を担当していただいている組合の方々もここ10年ぐらい年々収量が低下しているとおっしゃっております。湿害対策に効果のある播種技術として、福岡県が開発した「部分浅耕一工程播種」と農研機構が開発した「高速畝立て播種」がありますが、埼玉県では実証事例が少ないため、今後の普及を視野に、今回実証試験を行うことになりました。

酷暑の中での開催となったが、近隣農家をはじめ、多くの方々が来場

実証区と慣行区の詳細

湿害対策に期待できる技術でまっすぐ播種

排水対策として、播種前にサブソイラによる心土破砕と明きょを掘る作業を行いました。実証区ではサブソイラを細かく入れており、組合の方々も他のほ場に比べると排水が良いという感触を得ているようです。本日の播種は、直進アシスト付トラクタと後付け自動操舵システムを設置したトラクタで作業を行いました。大豆栽培においては、まっすぐ播種できないと、中耕・培土の作業で上手く土が上がらなかったり、大豆に土がかぶってしまうことがありますが、まっすぐ播種することで、そういうリスクも軽減できると思います。

実証区①は高速畝立て播種区(21a)。麦収穫後、耕起および排水対策(サブソイラ+明きょ)を実施済

未習熟者でもまっすぐな播種が可能となる、GS仕様のパワクロで作業が行われた

実証区②は部分浅耕一工程播種区(12a)。麦収穫後、不耕起の状態で播種に臨んだ

部分浅耕一工程播種は、トプコン自動操舵システムを装着したパワクロで作業を実施し、まっすぐな播種を実現

生産者の声

農事組合法人 須江機械化組合
代表理事 日野岡 宣男様
[経営面積]水稲 約10ha、小麦約10ha、大豆 約10ha

近年低下が続く、収量の回復と安定が課題

私達の組合では、大豆の栽培は、全て埼玉県認証特別栽培で取り組んでいます。ありがたいことに品質については大変高い評価をいただいており、地域有数の醤油や豆腐の製造元に出荷させていただいております。当然、収量の安定が望ましいのですが、ここ数年、気象状況の影響で、非常に収量が低下しています。昨年は、1時間に100mmを超える雨が3時間も続くという異常な降雨があり、ほとんど発芽不良になりました。
播き直しても莢がつかず、一挙に平年収量の30%ぐらいに落ち込んでしまいました。また、夏場は酷暑や高温の影響により、大豆の徒長や病害の他、雑草繁茂も多くなっている状況です。

今回の実証では在来品種の「白光」を播種。組合では20年ほど前からこの品種の栽培に取り組んでいる

有効な解決策を見出すべく、実証に取り組みたい

この状況を何とか改善したいと、組合員一丸となって考えてきました。とにかく発芽率を高めなくてはという想いで、耕うん後は速やかに播種を行ったり、播種時期に土壌の水分率を高めるような工夫をいろいろやってきて、一昨年は60%ぐらいに復旧したんですが、先ほど申しました通り、昨年は30%程度に落ち込んでしまったという状況です。今回の実証は、なんとか有効な解決策を見出していきたいという想いで取り組んでいます。2つの技術による播種作業が、播種以降の除草作業や培土作業にどのように影響してくるかということも含め、組合として体系的に学んでいきたいと考えています。

播種作業の様子をクボタの羽鹿技術顧問とともに見守る日野岡様

関係団体の声

有限会社 とうふ工房わたなべ
代表取締役社長
渡邉千恵子様

地域の大豆で、地域に喜ばれる豆腐を製造・販売

私たちは、ここからほど近い埼玉県比企郡ときがわ町で、地域の生産者様から原料となる大豆を仕入れて、地域の皆さまを中心とする方々に消費していただこうという、循環型のような考えで、豆腐や納豆などを製造・販売しています。地域を守る生産者のみなさんが、いつも質の良い大豆をつくってくれて、それを私達が買い取らせていただく。それで、また次の年に作っていただけるという流れが大事だと思います。ですから、生産者の皆さまが喜んで大豆を作っていただけるような状況にないと、大変なことになると思うんです。ここ最近、なかなか収量が上がらないということですが、私達が使わせていただきたくても、湿害、大雨などの影響で収量が少なければ、豆腐もたくさん作れないんです。

原料となる大豆の安定生産へ、実証の成果に期待

こちらで作っていただいている大豆は、私たちのところで納豆や豆腐になります。すごくファンが多い商品で、本当に美味しいものができるので、無くてはならない大豆なんです。だから、穫れない年は本当に困るんです。今日の播種作業で、最新の機械や技術でこういう作業ができるというのを拝見させていただきました。作業性が良く、湿害の対策として期待できるということなので、上手に機械を使っていただいて収量増に繋げていただけたらと思いました。こうした技術を活用しながら、生産者の皆さまに一生懸命作っていただいて、豆腐や納豆づくりを通じて生産者と消費者の橋渡しとなり、この地域をはじめとする皆さんに喜んでいただけるよう、私たちも取り組んで行きたく考えております。こういった取り組みが、将来も美しい大豆畑の景色に繋がっていったらいいなと、今日見ていて、本当にそう思いました。

須江機械化組合が生産する大豆でつくられる「鳩山納豆」
((有)とうふ工房わたなべ様 Webサイトより)

クボタ技術顧問の解説

株式会社クボタ
担い手戦略推進室
技術顧問
羽鹿牧太

「部分浅耕一工程播種」と「高速畝立て播種」

実証主体の組合にお聞きしたところ、昨年までは湿害でなかなか上手く播種できず、その後の生育も良好ではなかったということでしたので、今回、梅雨の合間をぬって播種できる湿害に強い技術として、「部分浅耕一工程播種」と「高速畝立て播種」の2つの播種技術の実証に取り組んでいます。部分浅耕一工程播種は、播種爪の一部をカルチ爪に交換することで、普通通りに深く耕起する部分と浅く耕起する部分を作り、浅く耕起したところの未耕起部分に接するように播種する技術です。降雨の際には深く耕起した部分が排水路となって湿害を防ぎ、干ばつの際には未耕起部分から供給される水分によって発芽が促進されます。この技術は降雨・干ばつの両方に対応できる播種技術として注目されています。一方「畝立て播種」は畝を作ってその上に播種することで降雨時に湿害を回避する技術ですが、作業速度が遅いことがネックとなっています。今回実証する高速畝立て播種技術は、耕うんと畝立て播種を別々に行うことで高速化が図れるようにしたことが大きな特長です。専用の播種機を使い、時速5~6kmで作業ができるので、梅雨の合間の短い晴れ間に大きな面積を播種しなければならない大規模生産者に適した播種技術です。

「部分浅耕一工程播種」 ロータリの後部に播種機(2条)を装着し、播種作業を行う

播種機で播種を行う部分は浅耕するため、ロータリの爪を短いものに交換する

「高速畝立て播種」 あらかじめ耕起・砕土を行ったほ場で、畝立てと播種を同時に行う

高速畝立て播種は、小橋工業(株)の高速畝立てディスクHDR200(2条)と(株)アグリテクノサーチの高速播種機HUD-2(2条)の組み合わせで行われた

それぞれの播種技術の注目ポイント

注目していただきたいポイントは、部分浅耕一工程播種では、浅く起こした部分と深く起こした部分の違いです。作土を取り除くと播種床と排水溝がきれいに形成されていることが分かります。全面ではなく一部を起こすことで作業もスピードアップしていますので、そこにも注目していただきたいです。高速畝立て播種の方は何といっても播種スピードです。作業の動画をご覧いただくと従来の耕うん同時播種よりずっと速いことがお分かりいただけると思います。これまで取り組んできた播種方法で梅雨期の降雨等による湿害の回避が難しい場合は、このような技術も開発されていることを思い出していただければと思います。大豆栽培は発芽が成功すれば半分成功したも同然と言われますが、大豆の播種期は天候が不安定で、発芽・苗立ちの安定化が難しいのが現状です。この状況を改善するのにこの2つの技術は大いに役に立つと考えております。

資料ダウンロード

SR20230711_埼玉県鳩山町

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