「みどりの食料システム法」に基づき各都道府県で基本計画が策定され、農業の持続可能性を目指す取り組みが現場で本格化しています。一方で有機農業に取り組む生産者は向き合う課題も多く、試行錯誤を行いながら日々栽培を行っています。今回のレポートでは雑草対策に取り組む生産者に向け、有機農業における除草作業の省力、効率化を図る機械化提案として「楽とーる」と「ペレット施肥同時除草機」の2つの除草機を生産者の声とともにご紹介します。

クボタ技術顧問の解説(楽とーる)

株式会社クボタ アグリソリューション推進部
技術顧問 渡辺 広治

「楽とーる」には3つの特徴があります

 次世代を担う農業者に新しい技術や機械に興味を持ってもらうため、クボタでは、新潟県農業大学校と連携して、最新技術の実証試験を実習に組み入れ、学生とともに取り組んでいます。その一環で6月6日に化学合成農薬及び化学肥料を使用しない栽培の実習を行っているほ場において乗用水田除草機「楽とーる」の実演会を行いました。
 「楽とーる」には①古くなった田植機をリユースして活用②価格がリーズナブル③乗用で株間・条間をしっかり除草できる、という3つの特徴があります。
 「楽とーる」は、移植から10日後に苗がある程度落ち着き、雑草が出始める頃が最初の除草時期となります。今回チェーン除草で一度除草を行い、雑草が取り切れなかったほ場においても「楽とーる」で除草作業を行いました。その結果、チェーン除草で取り切れなかった雑草を取り除くことができたので、高い除草効果に期待ができます。

古くなった田植機の再利用が可能な乗用水田除草機 「楽とーる」

生産者の声(楽とーる)

毎年試行錯誤しながら除草作業を行っています

新潟県農業大学校 稲作経営科
准教授 渡邉 輝彦 様

 大学校では、みどりの食料システム戦略策定前より環境負荷低減や高付加価値米について重要視しており「有機栽培稲作論」を選択科目としてカリキュラムに加えています。その一環として化学合成農薬及び化学肥料を使用しない栽培を行っているのですが、雑草対策が一番課題だと感じています。毎年、雑草対策としてチェーンをほ場に入れて引っ張る除草を行ったり、竹ぼうきをチェーンの変わりに使用してみたりなど、試行錯誤を行いながら除草作業をしています。

「楽とーる」は稲を傷めることなく高い除草効果が発揮されます

 今回、軽労化と除草効果向上を目的にクボタから実演機として「楽とーる」をお借りました。田植えを行ってから10日程度しか経っていなかったため、稲を巻き込みながらブラシが回転する仕様に浮き苗の心配をしていましたが、意外と稲の傷みも無く、しっかりと除草できている点が非常に良いと感じました。大学校では、授業などでタイミングよく除草作業に入れないときがあり、雑草が大きくなることもあります。「楽とーる」はある程度大きくなった段階でも除草効果が見込める点に期待しています。

株間用、条間用ブラシが左右逆に回転することで、株間条間の除草が可能

農業のかっこよさにあこがれて農業者を目指すようになりました

新潟県農業大学校 稲作経営科稲作専攻2年生
肥田野 然 様

 父方の実家が新潟県新発田市の専業農家で、祖父が大きな農業機械に乗って、田植えや稲刈作業をしているのを見て、カッコイイと農業に対する憧れを抱きました。祖父は後期高齢者で年々体が弱くなり跡継ぎ問題が浮上する中、改めて実家の田んぼに思い入れを感じ、自分が跡継ぎになるべく大学校に入学しました。大学校では、2年生になると1人約50aのほ場1筆の管理を任されます。その中で私は、実家の経営に携わった時に、栽培方法の選択肢の一つとして引き出しは多いほうが良いと考え、実習において化学合成農薬及び化学肥料を使用しない栽培でほ場管理を行っています。

「楽とーる」はSDGsに貢献する機械なので好感が持てます

 1年生の頃、学年全体で化学合成農薬及び化学肥料を使用しない栽培に取り組んだ際、雑草の処理が課題に上がりました。昨年の除草方法は、自身で田んぼに入りチェーンを引っ張る作業や手作業で、労力的にもかなり大変で半日かけても終わらないこともありました。今回クボタから実演機をお借りして「楽とーる」で除草作業を行ったのですが、乗用なので楽に作業が行えて除草効果も高く、その上、早く作業が終わったところも良かったです。また、古くなった田植機を再利用できるところがSDGsに貢献し、画期的だと感じました。

授業の一環として肥田野さんが管理する化学合成農薬及び化学肥料を使用しないほ場で「楽とーる」の実演会を開催

楽とーるでの除草前(左)と除草後(右)。根本から抜いた雑草が水面に浮いている

クボタ担当者の声(ペレット施肥同時除草機)

株式会社北陸近畿クボタ ソリューション推進部部長
博士(農学) 北倉 芳忠

慣行と比べて約90%作業時間を削減します

 福井県では有機農業や特別栽培米など、環境に優しい農業の推進を以前から行っていますが、この取り組みの中で、有機肥料が(化成肥料に比べて)多量散布であることと、雑草の処理に労力がかかることが課題となっていました。これらの課題を解決するために、福井県農業試験場と北陸近畿クボタでは乗用で除草が行えて、かつ施肥が同時に行える機械の開発を行いました。福井県農業試験場で実施した試験の結果、慣行では除草(手作業)に10aあたり10時間、肥料散布(動力散布機)に10aあたり2時間を要しましたが、ペレット施肥同時除草機では10aあたり約1.5時間で慣行に比べて約90%の作業時間削減に繋がりました。

アタッチメントの取替でさまざまな形状の肥料を同時散布できるペレット施肥同時除草機

アタッチメントの改良で「一度に多量散布」を可能にしました

 ペレット施肥同時除草機は、水田の走行性と雑草の埋没・除去性能が優れているオーレックの水田除草機(ウィードマン)と、均一散布が可能なジョーニシの施肥機(サンソワー)で構成されています。慣行では化成肥料が、10aあたり30〜40kgの散布量のところ有機肥料では10aあたり約150kg散布する必要があり、またペレット状の肥料などさまざまな大きさや形状の肥料を散布するため、通常のロールでは多量散布が難しいことが課題でした。通常の繰り出しロールの穴を削って大きくした試作品を作製し試験を重ねた結果、ペレット状の大きな粒でも多量散布が可能になり、有機栽培の軽労化に貢献する機械となりました。

通常の繰り出しロール(左)とペレット状の肥料でも多量散布可能な特注の繰り出しロール(右)

生産者の声(ペレット施肥同時除草機)

福井県越前市 農事組合法人弘法大師ファームみつまた
代表理事(組合長) 奥山 紀昭 様
[経営面積]34.5ha
水稲23.5haうち有機栽培12ha、他 大麦、大豆、そば

稲を踏み倒していても、稲の根がしっかり張っていれば起き上がってくる

除草機構がフロントなので、目視で確認しながら作業が可能。回転式レーキで株間を、回転刃ロータリで条間を除草する

乗用で、除草と施肥を同時にできるので省力・効率化が図れます

 ペレット施肥同時除草機はチェーン除草だと難しかった株間の除草ができ、雑草が少し大きくても土の中にしっかり埋め込んでくれるなど、除草効果が高いことがメリットです。また、この機械は1人で作業が可能なので、除草にかかる人数を3分の1に削減することができました。これまでは背負動散で施肥を行っていましたが、ペレット施肥同時除草機は除草と併せて施肥が行えるので効率的です。除草時期と施肥時期を合致させるために、「への字農法(※)」を取り入れて、ちょうど2回目の除草と施肥時期が被るようにしています。

(※)基肥や穂肥はせず、中間で追肥を行うため葉色が「への字型」に変化する農法。

作業時に散布した有機石灰(有機石灰 セルカ )

弘法大師ファームみつまた様では、ほ場によってペレット肥料も使用している(有機質肥料 夢ぼかし)

ペレット施肥同時除草機での除草前(左)と除草後(右)

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