スマート農業実証プロジェクト 現地レポート
スマート農業加速化実証プロジェクト
岐阜県|
くり|
岐阜県恵那地域は県下最大のクリ産地で、地元で製造される和菓子「栗きんとん」などに原料供給していますが、農家の高齢化や労働力不足が深刻化しており、生産体制の維持や技術の継承が急務となっています。そこで岐阜県では産地の維持・発展を目指して「クリから始まる果樹産地発展モデル実証コンソーシアム」を設立、令和3年度スマート農業実証プロジェクトに採択されました。
同コンソーシアムでは11月1日に中山間農業研究所中津川支所において「クリ産地におけるスマート農業実演会」を開催しました。当日は生憎の悪天候でしたが、生産者や関係機関、約50名が参加し、実証内容や農業用ドローンをはじめとする、スマート農業機械の説明に耳を傾けました。また、質疑応答では多く質問が飛び交うなど、岐阜県におけるスマート農業への関心の高さが伺える実演会となりました。
実証担当者の声
中山間地でのクリ栽培の人手不足に対応したスマート農業の実証を行いました
県でスマート農業の普及を推進しています
岐阜県では、担い手確保や労働力不足の解消といった、県農業の抱える課題の解決に向け「少ない人材での経営規模拡大の実現」「経験年数等に関わらず誰もが取り組みやすい農業の実現」「単収の向上、高品質生産及び付加価値向上の実現」を目指して、スマート農業を推進しています。
具体的には①情報集約・発信、②技術の実証、③技術研修、④技術の普及、⑤新技術の研究、に取り組んでいます。
産地のさらなる発展を目指してスマート農業の実証を行いました
恵那地域のクリ産地は生産者・地元菓子業者・関係機関が一体となって発展してきました。一方で、本地域は中山間地域に位置し、担い手や労働力の確保が難しく、生産体制維持や技術継承が困難となっていることから、高品質なクリの安定供給が課題でした。
実証プロジェクトでは、スマート農業機械のシェアリングや収穫したクリの流通の最適化、ベテラン生産者から担い手へのスムーズな技術伝承、スマート農業機械の導入による作業時間の低減といった実証に取り組むことで、産地のさらなる発展を目指しています。
スマート農業機械の導入によって大幅な作業時間の削減を実現しました
令和3年度(初年度)の実証では、スマート農業機械の利用により、施肥、除草、防除、収穫作業のいずれも岐阜県経営モデル指標と比べて削減することができ、経営全体の作業時間は36%削減となりました。
実証2年目である令和4年度も、昨年と同様に各種作業時間の実証を行いました。クリ園は傾斜がありますが、直進アシスト機能付きトラクタを乗り入れ、オフセットモアを装着して除草作業を行うことで昨年度より大幅な作業時間の削減になりました。また、農業用ドローンT20Kで、高低差があるクリ園での果樹連続自動航行散布の手法を確立することができました。
実証の成果を積極的に発信してスマート農業技術の普及拡大を目指します
実演会は、岐阜県園芸特産振興会果樹部会くり専門部との共催で行い、クリ産地の生産者やその関係者に多くご参加いただきました。実演会で知っていただいたことを今後の産地としての取組の参考にしてもらえたらと考えています。今後も実証の成果を積極的に発信してクリ生産におけるスマート農業技術の普及を進めていきたいです。
実証農家の声
夏場の大変な防除作業が農業用ドローンの導入でかなり楽になりました
地域の特産品、クリの生産拡大で地域の活性化を図っています
恵那、中津川地域は昔より栗きんとんを中心とした、クリの加工製品が非常に有名な地域です。しかしながら、えな笠置山栗園を設立する前は、地域産のクリの供給量が少なく、クリ生産拡大が望まれていました。このため、グリーンピア恵那(大規模年金保養基地)の跡地のうち約20haを利用して2011年に笠置山栗生産組合として発足、多くのクリを植栽し、生産拡大を進めてきました。
2016年に㈱えな笠置山栗園に法人化し、焼クリ直売やクリひろい体験等のイベント開催を通じて、消費者との交流やまちの活性化を進めています。
農業用ドローンでの防除作業を知ると従来の方法には戻れません
クリ栽培において、夏場の防除作業は大変重労働で命懸けです。従来の防除作業は動力噴霧器4台を使用、各3人チームで作業を行います。暑い夏場に、カッパとマスクをして、重い高圧ホースを引っ張って傾斜のきつい樹園地を行ったり来たりして行う作業はとても大変でした。実証プロジェクトでは、防除作業の負担軽減のため、農業用ドローンT20Kでの防除作業を行いました。
傾斜の続く一番長い畝は200m近くもあり、手動でのドローン散布は難しく、散布精度向上を図るため事前に測量用ドローンでRTK測量を行い、農業用ドローンの「果樹モード」での自動航行を行うことで、果樹園でもドローンの防除が楽にできるようになりました。自動航行には何度か微調整などが必要ですが、従来の方法より労力と時間を削減できたので、従来の方法には戻れないですね。ただ、現在クリの登録薬剤が少なく、特に一刻も早い殺菌剤の登録が望まれます。
スマート農業でえな笠置山栗園後継者の育成を行います
えな笠置山栗園の中心的メンバーは7名程度、私が一番若手で68歳になります。作業に近隣の協力者とパートの力をお借りして経営を行っています。若い方へ経営を引き継いでいきたいのですが、後継者がいないのが現状です。人手が少なく高齢化も進む中、少しでも農業機械に頼りたいと、実証プロジェクトに参画し実証を続けてきました。
今後はスマート農業で、クリ栽培における作業負担の軽減を図り、スムーズな技術継承を行うことで少しでも早く後継者へ、えな笠置山栗園を引き継いでいけたらと考えています。
実演会参加者の声
農業を取り巻く課題解決の手段としてスマート農業に期待しています
クリ栽培に農業ドローンは有効だと感じます
実演会には岐阜県園芸特産振興会果樹部会くり専門部から案内があり参加しました。現在クリ栽培において、防除作業は主に動力噴霧器で行われており、省力化のためスピードスプレーヤでの散布が考えられますが、斜面の作業には不向きだと感じています。また、キャビンがない仕様だと散布中はカッパが必要ですし、キャビン付きでも視野が狭くなることがあります。クリの木は上に向かい葉や実がなるので、木の上からの散布で防除が行えるドローン防除はとても有効だと感じました。
実証を重ね、より簡単操作で低コスト化できればいいと思います
現在法人では、農業用ドローン数台と直進アシストトラクタ、KSAS等のスマート農業を導入しています。農業を知らない方でも農業をやる時代になっており、スマート農業機械の導入で、そういった時代に対応していけると感じています。今後年配の方でもわかりやすい操作性、例えばボタンひとつで作業ができるようになればさらに良いですね。
スマート農業普及のための実証プロジェクトには大賛成です。各地で様々な実証を行っていただき、全国に普及することで、より安価に導入ができる未来になっていけば良いと思います。
クボタ担当者の声
クリ園における農業用ドローンの活用方法と注意点
果樹モード使用で高低差がバラバラでも一定位置の高さで散布が行えます
クリ園でのドローン防除(完全自動航行)は全国では初めての試みです。2年間の実証の中で、試行錯誤を繰り返し、クリ栽培における農業用ドローンでの防除の方法を確立できたと考えています。実証を通じて、樹上散布高さを一定にして防除をすることが重要だとわかりました。クリ園は標高や樹高がバラバラです。防除散布の前に測量用ドローンで測量を行い、農業用ドローンの「果樹モード」を活用することで、樹上高さ4mを常に保持したまま防除が行えるので、より精密な散布を行うことができました。
また、クボタでは農業用ドローンとKSASが連携しているため、KSASに蓄積されたすべての実証結果のデータを報告しています。
安全性を重視した農業用ドローンの飛行を推奨しました
ドローンを飛ばす際の注意点も見えてきました。当初クリの全ての樹上を飛行させ、効率・効果的な防除を行うことを目的としていました。クリの樹上を散布させることがこの実証の課題(当社へのミッション)になります。しかし果樹園周辺にはフェンスや、雑木林が多く、ギリギリを飛行するとセンサが反応して緊急停止し、航路の再構築や、最悪の場合故障などに繋がり防除作業に支障をきたします。そこでクボタとしては作業性や安全性を重視し、フェンスから1〜3m手前で安全距離航路を設定し散布を行いました。今年の実証結果から、防除効果は確認でき、来年以降も安全性を考えた航行を続けていただければ思います。
また、RTKのアンテナと農業用ドローンを配置する基準点が少しずれるだけで、樹上飛行に1〜2mの誤差が生じるため、事前に水散布によるテストが複数回必要です。
クボタはドローン初心者でもしっかりサポートを行います
えな笠置山栗園の皆様は農業用ドローンの初心者でしたので、操作等の指導も含め、実証の開始当初からきめ細やかなサポートをしてきました。2年目の今年は、自動航行が可能となったことで、えな笠置山栗園の皆様だけでも防除作業ができるようになりました。今後、クリの栽培農家様に実証の成果を踏まえて、技術を広めていければと考えています。