ソリューションレポート
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担い手への農地、農作業の集約が加速し、一層の低コスト生産が求められる中、乾田直播栽培(以下、乾直)が改めて注目されています。一関遊水地(図1)では2021年より乾直を実証し、収量確保、省力効果、栽培上の留意点等の確認を行い、2022年は取り組み面積を大きく拡大しました。RTK-GNSSの活用も進んでいます。
■一関遊水地について
岩手県南部に位置する一関地区は、北上川が平野から下流の丘陵地に流れ入り「狭窄部」を通過する地形であるため、カスリン台風(1947年)、アイオン台風(1948年)等により大水害に見舞われました。1972年より洪水調節、市街地等の水害防除、農用地としての高度利用を目的とした大規模な遊水地事業が開始。現在、ほぼ完成した第1〜第3遊水地約1,178haを、農地として利用していくことになります。農業法人と個人農家がそれぞれ分担・協力して、地域農業の発展を図っています。大区画水田が整備され、2021年からは2機のRTK-GNSS基地局により、遊水地全域で、高精度な位置情報を活用した精密な農作業が可能になっています。
自動操舵補助システムの活用事例
一関遊水地で普及する乾田直播
お客様の声
水稲全面積を乾直へ 作業効率アップ&コスト低減
移植と遜色がない技術の進歩に衝撃を受けました
法人経営をより効率的に行うため、直播導入の検討を行っていた際に、地元の普及センターやJAの勧めで、東北農研センターと岩手県の現地研修会に参加しました。研修会で初めて移植と遜色無い乾直の水田を見たときは衝撃を受けましたね。「乾直でもこれだけできる」とわかり、2021年に約2haの試験導入を行いました。関係機関のサポートもあり、移植以上の収量が確保できました。その結果を受けて、今年は法人の水稲栽培(飼料用米)の全てを乾直に転換することを決意しました。
乾直導入によって法人経営と個人経営で作期分散が図れます
乾直のメリットは、作期分散です。構成員3名は、それぞれが個人で主食用米や麦の栽培も行っていて、法人分の作業の効率化が必要でした。法人の水稲栽培を乾直にすることで、個人の水稲栽培と作業時期がずれるので、作業配置にゆとりが生まれました。肥料費や薬剤費が普通移植よりやや増すと思いますが、育苗の手間や、作業分散で春の作業全体を省力化できることで、結果的にコスト低減に繋がると思います。
自動操舵システム導入で、管理作業の効率もアップ
播種はロータリシーダで行っていますが、今年は、みちのくクボタから、グレートプレーンズの不耕起汎用ドリルを借用して、数枚のほ場を播種しました。ロータリシーダだと作業速度が4.4km/時しか出せなかったのですが、不耕起汎用ドリルでは、8km/時で高速作業ができ、作業効率が格段に高まります。汎用性があり、麦も播種できるので、今年の結果を見ながら、選択肢の一つとして考えていきたいと思います。
また、RTK-GNSS自動操舵システムを、トラクタに装着して、乾直の播種を行いました。マーカが不要で、うね合わせも正確。ストレス無く真っすぐに播種を行ってくれるので、オペレータはとても楽です。また、その後の、ハイクリブームでの薬剤散布でも、作条を踏むこと無く作業ができるようになります。
魅力ある農業経営を目指して
私達が経営している水田は、比較的交通量の多い県道沿いにあり、たくさんの方の目に触れる場所です。周りの若い方々が、私達の姿を見て、少しでも関心を持ってもらえるよう、カッコいい、そして儲かる、魅力ある農業経営を追求し続けていきたいと考えます。
お客様の声
遊水地を私達が守り継いでいきたい
遊水地を耕作放棄地にしないために、私達が守り継いでいきたい
アグリパーク舞川は、一関第3遊水地を軸に経営を行っています。高齢化が加速する中、リタイアした方々の農地が必然的に集約され、今までの栽培体系だと育苗ハウス等にも限界が生じるので、乾直はこれから必要な技術だと考えています。
こうして整備された農地を耕作放棄地にしないためにも、私達がこの遊水地を守って行かないといけません。これからも、新しい技術を積極的に取り入れながら、地域の将来に繋がるよう、また若い人たちに興味を持ってもらえるような農業経営をしていきたいと思います。
お客様の声
乾直×鉄コ×移植で春作業をより効率的に
一関遊水地内で乾直導入が一気に進んでいます
私達は一関第2遊水地で、法人経営体「(農)アグリ平泉」と各個人経営体で役割分担しながら、営農を行なっています。花巻市で乾直を導入されている(有)盛川農場さんを視察させてもらった際に、「一関遊水地のように条件の良いほ場で乾直をしていなかったことが不思議」と言われたことがきっかけで、アグリパーク舞川さんと情報交換を行いながら乾直の導入を決めました。
乾直はメリットしか見当たりません
まだ取組2年目ですが、乾直はメリットしか無いと感じています。
私はすでに鉄コーティング直播(以下鉄コ)を導入しているので、乾直でさらなる作業の分散が図れます。乾直は早ければ3月末から播種ができるので、4月上旬までには作業が終わります。そこから、鉄コ、移植と作業の流れを作れるので、計画が立てやすくなります。作業時期が重なるという悩みも解消できます。また、もし悪天候が続いて乾直の播種ができなくなった際でも、鉄コへの切り替えが簡単にできますね。万一、自然災害で育苗ハウスが潰れたりした時も、乾直や、鉄コのような直播技術が活きてくると思います。
集中してマーカを見なくても良いので作業がとても楽です
遊水地は1〜2haの大区画水田がほとんどのため、一日中マーカ線を見ながら播種や移植作業をすると非常に疲れます。自動操舵システムを使えば、作業の仕上がりが綺麗で、なおかつ疲れが軽減されるので一石二鳥です。乾直の播種作業は天候に左右されやすいため、翌日雨の予報で播種作業を夜まで続けなくてはならない日にも、マーカに頼らず播種できる点ですごく良いと感じます。
今年は、みちのくクボタさんから、マスカーのグレーンドリルを借りて播種を行いました。どの播種機が自分の経営にあっているか模索している段階です。毎年情報をアップデートしながら、経営にあった作業体系を見極めていきたいと考えています。
使用した播種機について
均平、播種床づくり、ドリル播種、鎮圧の基本的な栽培体系は同じですが、播種機によってそれぞれ特徴があるので、砕土のしやすさやほ場規模等に適した播種機を選択してください。詳しくは「クボタスマート乾直Ver.2」をぜひご参照下さい。
グレートプレーンズ 不耕起汎用ドリル(GP3P806NT)
●各条の播種ユニットが独立してほ場面に追従することで、凹凸がやや多いほ場や傾斜地でも時速7〜8kmの高速作業ができます。
●4段ギアボックスを採用。幅広い作業速度域で精密な播種量の調節が可能。
●水稲、麦類、大豆(粒径8mm以下)、牧草に汎用的に利用できます。
マスカー グレーンドリル(W25AA)
●コールタがディスクタイプ(A)とシュータイプ(B)があり夾雑物が多い場合はディスクタイプが適します。
●時速6〜8km程度での高速作業が可能で、種子の繰り出し精度が高く調整も容易です。また、施肥機を組み合わせれば播種同時施肥も可能。
●水稲、麦類、大豆、そば、牧草に汎用的に利用できます。