スマート農業実証プロジェクト 現地レポート
スマート農業加速化実証プロジェクト
三重県|
稲|
今回の現地レポートは、スマート農業技術で新たな水田農業を目指す「三重県スマート水田農業コンソーシアム」で、実証農場として参画する伊賀市の株式会社ヒラキファーム様を訪問。生産部長を務める森様に、スマート農業に取り組む思いと実証1年目の成果について話を伺いました。また、合わせて、三重県農林水産部高橋様のコメントとともに実証内容を紹介します。
後継者不足や高齢化が進展、限界が近づく種子産地の維持
伊賀地域では、種子生産に適する中山間地の小区画ほ場を活かして、古くから採種事業に取り組んできましたが、近年、後継者不足や高齢化が進展し、種子産地の維持が限界となりつつあります。種子生産には、特有な手作業の労力負担があり、主食用米以上に精密な管理を必要とされることから生産効率が低く、担い手確保の阻害要因となっています。
そこで、三重県では、スマート農業技術の導入によって、種子生産における労働生産性を大幅に改善することで、担い手や新規就農者でも容易に取り組める機械化体系の確立を目指し、関係機関と連携してコンソーシアムを設立。令和2年度のスマート農業実証プロジェクトに応募、採択されました。
種子生産の課題だった除草と病害中防除に、大きく貢献するスマート農業技術
「生産をいかに簡素化するか」が大きな課題
この地域では、種子生産農家の高齢化が進んでいて離農する農家も増えています。主食用米に比べて管理に手間がかかる上、経験値がいる種子生産は、若い人が入って来にくい状況です。次世代につなげていくためには「生産をいかに簡素化するか」が大きな課題です。スマート農機を取り入れて、作業を省力化することによって、若い人でも簡単に参入できるような業種にしなければと考えています。
乗用水田除草機の導入で作業時間は3~4割削減
種子生産をする上で、一番苦労するのは除草です。移植した 苗以外の株は全て抜きます。雑草はもちろん、前年のコンバインで収穫した際に飛び散った漏生稲の株も含めて。これは除草剤が効かないので、全部のほ場で手取り作業になります。今回の実証で使用した乗用水田除草機は、GPSで進路を確認しながら条間と株間を除草できました。今、実証データをまとめていますが、機械除草+手取り除草では、手取り除草のみの作業と比べて、作業時間は3~4割の削減ができています。これは大きいですね。
ドローン防除で適期散布と作業の効率化が実現
県の採種事業では、年間に6月、7月、8月の3回、農協と普及センターの担当者によるほ場審査が行われます。1、2回目を合格しても3回目で病気が出ていたら、今までの管理がすべて無駄になる、シビアな栽培に取り組んでいます。そういった意味でも、今回の実証課題のひとつである農業用ドローンによる防除は、特に期待していました。一昨年までは農協の子会社に無人ヘリによる防除を、散布時期もお任せで委託していましたので、ほ場ごとの適期、適剤防除が難しい面がありました。それがドローンの導入によって、「今散布したら一番効果がある」適期に散布でき、農薬の散布効果が目に見えて変わりました。しかも作業時間がわずかで済みます。小区画なら一筆1分くらいで散布できます。ドローン防除を見た近隣農家の方から委託の声も上がっていますので、受託作業も増えるかもしれません。
スマート農業で目指す「かっこいい農業」
今回の実証を通じて、スマート農業技術を営農に組み込み、今後は、面積の拡大に比例して、人員も増やしながら、地域の農地を荒らさずにしっかり管理していきたいと考えています。昔に比べれば変わってきましたが、農業は、やはり仕事としては泥臭いですよね。今の時代、農業に関心があっても、泥だらけになって働くことが嫌いな人もいます。私たちの生活に農業は欠かせないものなので、スマート農業に取り組むことで、「農業ってかっこいい!」と感じてもらって、若い人たちが、なりたい職業の中でもトップに来るような、そんな農業を目指していきたいと思っています。
スマート農業で期待される新たな価値や栽培方法の創出
中京・阪神の大消費地に隣接する農業生産県・三重
本県の農業は、海岸線から山脈に至る多様な地形を有する県土や四季の変化に富んだ自然環境の中で、地域の特色に応じた様々な産地が形成されており、中京・阪神の大消費地に隣接していることなど立地条件にも恵まれていることから、全国的にみても中位の農業生産県としての地位を保っています。主に、伊勢平野から中山間地域にかけては、米を中心とし野菜、施設いちご、トマト等が、鈴鹿山麓地帯や南勢地域では茶が、また鈴鹿・津地域では花き花木、南勢・東紀州地域ではかんきつ類が栽培されています。
地域が抱える課題解決に向けて「スマート農業」に取り組む
農業分野では、農業者の急激な減少による労働力不足、国内の食市場の縮小、グローバルな食市場の急速な拡大などの課題に対応するため、生産性の向上や規模拡大、作物の品質向上、新規就農者などへの技術継承、高度な農業経営などを実現する必要があります。そこで、これらの課題や困難の克服するため、AIやIoT、ロボット、センシング、ドローンをはじめとする「スマート農業」に取り組んでいます。
スマート農業技術体系の確立を目的にモデル地区で実証
さらに、農村維持の中心である家族農業の継続に向け、家族農業の継続のための省力化技術体系の確立を目的に、本年度よりAIや遠隔操作、自動化技術などを活用した施肥や病害虫防除、用水管理などの栽培管理技術において、スマート農業技術を取り入れたモデル地区を設定し、現地実証を行っています。スマート農業により、IoTで全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有されることで、今までにない新たな価値や栽培方法が生み出される事を期待しています。
令和2年度スマート農業実証プロジェクト
三重県スマート水田農業コンソーシアム実証概要
実証課題名:多様な品種供給を可能にする中山間水稲採種産地向けの
スマート採種技術の実証
実証代表:三重県(農林水産部農産園芸課)
構成員:(株)ヒラキファーム、伊賀ふるさと農業協同組合、(株)東海近畿クボタ営業本部 東海事業部、(株)日本農業サポート研究所、三重ヰセキ販売(株)、全国農業協同組合連合会三重県本部、三重県農業機械化協会、三重県農業協同組合中央会、三重県米麦協会、三重県
背景・課題
①三重県における種子生産は中山間地が中心で、中山間地では小区画ほ場が点在し、種子生産に適するが生産効率は低い。
②生産効率を改善できないのは、種籾生産に特有な手作業の労力負担があり、主食用米以上に精密な管理を必要とされることが原因。
③後継者不足と高齢化から種子生産現場は限界に達しつつあり、スマート農業技術を確立し、新規参入できる土壌を育成することが急務。
目標
実証生産者における
水稲種籾合格率 92%→ 100%
水稲種籾の生産コスト 1,049千円/10a→ 838千円/10a(▲20.2%)
水稲種籾の作業時間 19.1h/10a→ 12.5h/10a(▲35%)
種子採取にかかる所得率 42.6%→ 53.7%
実証で導入されたクボタのスマート農業技術
適期防除・作業時間の短縮を可能にするドローン防除
【農業用ドローン 導入のメリット】
●無人ヘリの一斉防除では難しい適期防除
→個人所有のドローンで適期防除が可能です
水稲の多品種化に伴う適期のズレに対応できます
●ホースを引っ張る動力噴霧機は重労働
→ドローンで負担軽減・時間短縮することができます
●ゲリラ豪雨等の異常気象への対応
→航空機なので雨天翌日でも作業可能です
●乗用管理機やトラクタで菌を運んでしまう
→航空機なので菌の付着の心配がありません
離れた位置から安心!快適!ラジコン操作
【ラジコン草刈機 導入のメリット】
●機械から離れた場所でラジコン操作
万が一機械が転倒したときの巻き込みの恐れや、振動・ホコリの影響がなく、安心快適に作業できます
●高いあぜでも、あぜの上から広い範囲の作業が可能
従来のハンドル式法面草刈機では届かなかった高いあぜでも、法面に立つことなく楽な姿勢で作業できるので、疲れが少ないく快適に作業できます
中山間地の水稲種子生産をスマート農業でかっこよく
中山間地での水稲種子生産の課題に取り組む本プロジェクトでは、ドローンMG-1SAKによる病害虫防除とラジコン草刈機ARC-500の実証に参画させていただきました。
病害虫に感染していない充実の良い良質種子の生産には、適期、適剤防除が大切な作業です。ドローンにより品種や作期のほ場ごとのきめ細やかな防除が短時間(散布時間50~60秒/10a)で、小区画の変形ほ場やほ場間の移動にも小回りが利き、被害軽減が図れると喜ばれています。また、中山間地の重要な課題である畦畔の除草管理では、夏の危険な重労働からの軽減として、新規就農者や女性、高齢者での作業も可能なラジコン草刈機に大きな期待が持たれています。今後、作業可能畦畔の把握により、効率的な畦畔管理作業方法について検討が重ねられます。いずれの作業機も手元の送信機で操作でき、若者にとって「かっこいい農業」の実現により種子生産が継続されるよう応援していきたいと考えています。