スマート農業実証プロジェクト 現地レポート
スマート農業加速化実証プロジェクト
千葉県|
千葉県神崎町で、大規模水田輪作体系の省力・低コスト化を目指し、国のスマート農業実証プロジェクトに取り組む「神崎町スマート農業実証プロジェクト研究会」。実証2年目の秋を迎えた9月16日、コンソーシアムの主催で、事業の進捗状況と成果を協議する推進会議と自動運転農機を実演する現地検討会が開催されました。今回は、当日の内容をレポートするとともに、事業を推進されているコンソーシアムの皆様に、令和2年度の成果と今後の展開についてお聞きしました。
第2回神崎町スマート農業実証プロジェクト研究会推進会議
推進会議
令和2年度のスマート農業技術の実証成果を報告
於 千葉県神崎町役場
コロナ禍の影響で3月以来にとなる今年2回目の推進会議は、コンソーシアムで事業を推進する神崎町役場の石橋課長補佐の進行で、神崎東部の大原代表理事による挨拶と関東農政局の堺田氏から来賓挨拶で開会。会議では、実証されているスマート農業技術について、令和2年度の進捗状況を報告、続けて技術ごとの取組内容と成果についてパワーポイントと動画を使って解説が行われ、経営上の課題についても協議されました。
【令和2年度実証内容と使用機械】
① 自動運転トラクタによる代かきの効率化(SL60A)
② GPS連動直進キープ機能付田植機による可変施肥の実証(NW8S)
③ GPS連動直進キープ機能付田植機による新人オペレータ作業(NW8S)
④ オートステア装置による作業の高精度化(SL60A)
⑤ 遠隔水管理システムによる水管理時間削減(ほ場水管理システムWATARAS)
⑥ 農業用マルチローターによる農薬散布・追肥(MG-1SAK)
⑦ 汎用ロボットコンバインによる自動収穫作業(WRH1200A)
現地検討会
アグリロボコンバイン・トラクタの同時作業を実演
於 神崎東部実証ほ場
会議後には、場所を実証ほ場に移して、現地検討会を実施。自動運転アシスト機能付きアグリロボコンバインによる水稲の収穫作業と、隣接するほ場で無人で耕うん作業を行うアグリロボトラクタとの同時作業が実演されました。コンバインのオペレータは農業未経験者である神崎町役場の女性職員・河北さんが担当し、生まれて初めての刈取作業を体験。農業知識が全くなくてもスマート農機なら収穫作業ができることを示しました。
本当にスゴイ!農業を知らない私でも収穫作業ができました!
「代かき」という言葉も知らなかった私が、コンバインに乗って稲刈りをする機会があるとは思ってもいませんでした。少し心配でしたが、ボタンを押したら後は乗っているだけでよかったので、私のような農業未経験者でも作業ができました。このコンバインでしたら経験の浅い新人でもすぐに戦力になりますし、ベテランも新人に仕事を任せることができて負担が減ると思います。本当にスゴイ!感動しました!
儲かる農業を追求することが私たちの使命
スマート農業への挑戦が人の意識と経営を変革します
収量アップにつながったスマート農業技術
昨年度にメッシュマップコンバインから取得したデータを田植機に反映させ、可変施肥によって均一的に肥料を施したことで、ムラのないほ場となっています。しかもすでに刈り取った籾・玄米の状態において屑米が少ないということが顕著でした。この点から見ても、今回のスマート農機の導入によって収量アップに繋がるということが成果として確認できました。
経済的効果が高い農業用ドローンによる防除作業
多くのスマート農業技術を実証していますが、特にドローンについては、経済的効果が非常に高いということが分かりました。今年はドローンで適期に「カメムシ防除」と「いもち病防除」を行いましたが、当組合は85haですが、麦・大豆を含めますと100haを超えます。その100haを共済組合による無人ヘリコプターに委託した場合は、ヘリコプターのフライト料が1ha当たり約1500円かかります。それを自分たちで賄うことで約150万円、原価償却と人件費を除いても65万円近くの経済的効果が望めます。
スタッフの意識変革を生んだスマート農業の実証
今のスタッフは30~40代が主体です。高性能な機械を使うということは、非常に期待感がありますし、農業に対してもやり甲斐といった意欲も湧いてくるようです。これからも「農業を楽しくしたい」と思っていることでしょう。また、地域の方々にも、私たちがスマート農業に取り組むことで、「こうした新しい農業をしているんだな」と関心を持っていただけました。自分たちも、低コストとか省力化について、実際に体感でき、データ的にもかなりの実益があったのかなと思っています。私たちは生産者として"儲かる農業"を追求することがひとつの使命と考えています。今後とも現状の体制の中で規模拡大に取り組んでいきます。
実証で得た体験と環境を活かし
地域へのスマート農業の普及に取り組んでいきます
スマート農業技術の凄さを体感できたことが大きな成果
今回の推進会議は、スマート農業実証事業として2年間の計画で実施しており、まだ途中ではありますが、今までの実証成果の報告と、関係者の皆さまがご覧になっていなかった汎用型ロボットコンバインの実演を兼ねて実施させていただきました。
アグリロボトラクタによる代かきなど、誤差なく精度の高い作業をしているのを見て、「人間にはできない作業だな」と実感しました。無人での作業までいかなくても、直線キープ機能だけ取り上げても、代かき作業や野菜のマルチ張り作業などにおいては、人間を超える能力があり、労力の軽減だけではなく作業時間の削減も可能です。その辺を間近で見てみると改めてスゴイものだなと感じます。実証を通じて、これならオススメできるかなという技術を肌で感じることができました。それが大きな成果かなと思っています。
実証で設置した固定基地局によって、スマート農業が導入しやすい環境に
今回、自動操舵システムの農機を導入するにあたって、役場の屋上にRTK固定基地局を設置させていただきましたので、スマート農機の導入が他の地域よりも取り組み易い状態ではないかと思っています。実証後はこの環境を活かして、チャンネルをシェアしながら地域でスマート農業の導入に取り組んでいきたいですね。また、今回のスマート農業の実証成果についても、地域の皆さんにお伝えして、農業経営が安定するように農家さんへ勧めていきたいなと考えています。
スマート農業の実証成果を整理し
技術の情報提供と最適な提案を行うことで、普及を図っていきたい
昨年度の実証において一番成果が上がったと感じたのが、ドローンを使用した農薬散布です。こちらは非常に作業時間も早く、散布の精度も高いということが確認できました。また、これまで委託費を払って防除をしていた場所の費用削減が可能になることで、経済的なメリットが見受けられたところが成果として大きかったと思います。
また、2年目につながる実証として、メッシュマップコンバインを利用して収量データを把握できるといったところも大きな成果でした。これまでは大規模経営の面積ですと、ほ場一枚当たりの収量を把握することが難しかったのですが、細かく収量が把握できそのデータを基に可変施肥を行えたことは成果だと思っています。
生産者に今回の実証で成果が上がった技術の情報提供と併せて、それをどのように使えば効率的になるのかを整理して情報を公表していくことで普及に繋げていきたいと考えています。今年はコロナ禍の影響で開催できていませんが、今回のような現地検討会の場を設け、地域の農業者に機械が動いているところを直接見ていただき、導入のメリットを理解してもらいたいと考えております。
令和2年度実証成果(抜粋
①自動運転トラクタによる代かきの効率化
【取組概要】
ロボットトラクタと有人トラクタとの2台同時作業により、代かき作業を行い作業時間を効率化
【実証成果】
・有人・無人機の2台同時作業による代かき作業で作業時間を慣行比で17%減
(設定時を含む。輸送時間は除く)
・ロボットトラクタの無人作業が有人作業より早く正確な作業であることを確認
②GPS連動直進キープ機能付田植機による可変施肥の実証
【取組概要】
・令和元年度の収量メッシュマップコンバインのデータから、生育不良による収量低下ほ場を判断し、令和2年度の可変施肥マップを作成した
・生育不足による減収が考えられる箇所は増肥、生育過剰箇所は減肥を行った
【実証成果】
・県試験場と協力し可変施肥の効果を検証中