スマート農業加速化実証プロジェクト 現地レポート

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NW6SとWATARASで失敗しない鉄コーティング直播 岡山県真庭市でスマート鉄コを実証

NW6SとWATARASで失敗しない鉄コーティング直播 岡山県真庭市でスマート鉄コを実証

5月29日、岡山県真庭市にある農事組合法人寄江原様のほ場で鉄コーティング直播栽培(以下鉄コ)の播種作業がNW6Sを使用し行われました。寄江原様はスマート農業実証プロジェクトに2019年から参画しており、2年目となる今年は、1年目に実証調査で収集したデータに基づいた栽培管理を進めています。また、鉄コほ場には「ほ場水管理システムWATARAS」が設置されており、手がかかるとされていた水管理を自動化することで、より省力で取り組みやすい鉄コ技術の確立を目指しています。

 


 

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KSASを活用した見える化農業で農地を守る
鉄コの水管理を徹底して今年も成功させます

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寄江原は四方を山で囲まれた、代表的な中山間地です。個別の営農では高齢化や機械投資の問題が大きな課題となっていたため、ほ場整備を機に2001年に集落営農組合を立ち上げました。さらに、営農組織で集落の農地を守っていくため、2007年に法人化して「農事組合法人寄江原」を設立しました。私自身は7年前にUターンして農業に携わることになりましたが、農業をまったく知らず、親や先輩方から厳しい指導を受けながら学んできました。そして、法人の代表を引き受け、「農地を守り続けていくにはどうしたらよいか」を考えるようになりました。これから集落の農業を守っていくためには、若い人たちの参画が必須ですし、若い人が興味を持ってくれる農業にしていくことが必要だと考えるようになりました。その頃、ちょうど真庭市から、「スマート農業実証プロジェクト」の提案があり、その中で、農業を「見える化」できる営農支援システムKSASを知りました。

パソコンを開けば、蓄積されたデータから、「いつ、何を、どのように」管理していたかがわかるので、新規就農者や若い方が、いちいち人に聞かなくても栽培管理を進められるようになります。スマート農業技術を活用することで、次世代に繋げる農業の確立を目指して、プロジェクトに参画することとしました。

稲作の省力・低コスト化を図っていくため、鉄コと密播を導入しています。鉄コは、4年くらい前から取り組んでいましたが、失敗ばかりでした。「発芽不良」「雑草の繁茂」による減収で何度も断念しようとも思いましたが、今後、農業を続けていくには省力的な栽培技術は必須です。今回のスマート農業実証プロジェクトへの取組みを機に、クボタの鉄コの新しい栽培技術を学び、ほ場水管理システムWATARASを設置したほ場で、GPSにより高精度の播種ができる田植機「NW6S」を用いて試験的に栽培を行っています。昨年は小面積でしたが、予想を上回る成果が得られたため、今年は鉄コの面積を拡大して、平均的な50a区画2枚で取り組むことにしました。

WATARASによるデータを基にした精密な水管理や効果が高い除草剤の適期処理によって、地域に合った鉄コの技術を確立したいと考えています。また、除草剤散布にドローンを使用することで、大幅に軽労化が図られ、ムラなく散布できるようになった点も良かったです。苗作りという1工程が省けるだけで大幅に省力化できるので、今年も成功すれば、さらに鉄コの面積を増やし、また、地域への普及を図っていきたいと考えています。

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スマート農機を活用して、地域に貢献できる農家を目指す

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私は、2年前の定年退職を機に、家の農業を手伝うことになりました。退職前から、地元の土地が年々荒れていく様子を見ていたので「これではダメだ、地域の農地を守っていきたい!」と考えていました。

今まで、田植機のオペレータをする機会が少なく、移植や播種の作業に関しては全く自信がありませんでした。普通の田植機では真っ直ぐにするために、マーカー線を見ながらずっと前を向いていますが、NW6Sは直進キープをしてくれる田植機なので、気持ち的に余裕が出て、種子や肥料がきちんと落ちているかどうか確認する事ができました。自動的にまっすぐにしてくれることは本当にありがたいです。

寄江原では昨年も鉄コをしていましたが、私はほとんど関わっていなかったため、知識として1からのスタートになります。しかしながら昨年スマート農機で収集したKSASのデータがあるため、私のような素人でもそのデータを頼りに作業が行えます。鉄コは水管理が重要だとお伺いしており、昨年WATARASで取得したデータから水温が高い時間帯や、ほ場ごとの日減水深等がわかっているので、データを活用して今年も成功させます!

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データを蓄積していくことで、将来、より精密な農業が可能になります

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スマート農業の実証を行うにあたり、スマート農業と低コスト稲作は相性が良いため、鉄コと密播を実証に組み込んでいます。水管理が非常に重要な鉄コほ場は、WATARASを設置して遠隔・自動給排水による管理を行います。昨年はWATARASの導入が播種後になったために、水位の基準数値の設定が曖昧になってしまい、課題を残しました。今年はその反省にたって、スタートから基準となる水位の設定ができたため、精密なコントロールができています。ただ、播種後すぐの水管理はシビアな点があるため、ある程度マニュアルで補正しながら、芽が出てからはWATARASの自動管理に任せれば良いと考えています。WATARASによって取得した水位・水温等のデータは、ほ場の水管理に大いに役に立ちます。日減水深が少ないと感じていたほ場でも、WATARASでのデータでは感覚より多く日減水深が大きいことがわかりました。ほ場1枚ごとの日減水深がわかることで、肥料や除草剤の適切な利用が可能となります。

鉄コの栽培管理やWATARASによる水管理には、ほ場の均平は非常に重要です。今年鉄コを実証するほ場は高低差が大きいほ場のため、ドローンで不陸測定(ほ場の高低差の測量)を行い、そのデータを基に大型ハローを使って、ほ場の均平化を図りました。そのおかげで滅多にお目に掛かれないくらい均平なほ場が準備できました。また、施肥設計については、昨年の収量コンバインの結果やドローンのセンシング結果、土壌診断結果等を活用して、ほ場毎に適切な施肥を設計しました。また、夏場、高温になる地温をいかに下げて根を元気に維持するかが大きなポイントになります。寄江原では今まで、夏場の地温・水温を下げるために、早朝に入水を行っていました。ところがWATARASの水温データから、早朝の入水で田の水温が上昇していることが判明しました。ポンプアップする河川の水温が高いため、田んぼの水温が一番高くなる昼間の入水に切り替えたことで、夜間に水温が十分下がるようになりました。昨年は移植も含めて今までにない収量を確保する結果となり、間断かんがいや飽水管理、土壌の乾燥防止などが自動で行えるようになったWATARASの効果はたいへん大きいと感じています。

クボタ技術顧問の解説

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昔とはちがう、成功に導く鉄コ栽培の水管理

十年ほど前に鉄コが普及した時期がありましたが、当時は西日本での鉄コの水管理への認識不足や鉄コで使える除草剤の少なさから失敗することが多く、西日本ではあまり定着しませんでした。現在では、西南暖地向けの栽培管理方法が確立し、鉄コに使える除草剤の種類が増えたことから、担い手農家を中心に、再度、広まりつつあります。鉄コの水管理は、移植栽培とは頭を切り替えて行う必要があります。WATARASを用いて水管理を自動化することで、生育ステージを追ったきめ細かな水管理が省力的に行えるようになります。今回播種を行ったほ場では、播種後、日減水深の3日分湛水して、4日後の出芽期までに自然落水させます。自然落水することで播種同時処理した除草剤の土壌表面への定着が進み、以後、処理層が崩れにくく効果が長持ちします。落水状態を維持し、10~12日後に入水して2回目の除草剤をドローン散布します。以後は、3日サイクルでの自然落水となる間断かんがいを行います。

もう一つ、鉄コの水管理に重要なのは額縁明きょです。速やかなかん排水が可能になり、播種前の落水による播種床の硬さ調整、播種後の速やかな入水、苗立ち期の落水、豪雨時の排水、低温時の湛水など、WATARASと組み合わせて生育ステージや気象状況に応じた機敏なかん排水が可能となります。また、鉄コの苗立ちを安定させる技術として超浅水代かき(事前に土塊に十分吸水させ、田面に水があまり見えない状態で代かき)が有効です。田面が均平に残渣なく仕上げられるだけでなく、田面への粘土の沈積が少なくなり、種子の埋没が軽減できます。

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バイオ液肥を活用した施肥設計

真庭市では、生ゴミ、し尿などから作られた循環型肥料「バイオ液肥」を無料で配布しており、寄江原でもバイオ液肥を使用しています。バイオ液肥は速効性の肥料で、昨年は肥料の効果が早く切れてしまい、分けつが思ったように確保できなかったため、肥料の改善として緩効性のLP肥料を組み合わせて使用しています。今年は見直した肥料設計の効果を確認したいと思います。また、ほ場の均平が非常に重要となっています。バイオ液肥を追肥で用いるときは、流し込みを行うため、ほ場の凹凸があると施肥ムラができてしまいます。レーザーレベラー等によるほ場の均平化で施肥ムラを解消することができます。

スマート農業加速化実証プロジェクト 現地レポート
岡山県真庭市 (農)寄江原

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