ソリューションレポート
山形県|
稲|
山形県置賜地域では、担い手を中心にほ場の合筆による作業の効率化を目指す動きが増えており、地力ムラ等による収量・食味の格差の解消が課題となっています。そこで、県では令和4年度のシステム化研究会実証調査において、スマート農業の導入による可変施肥の実証を行っています。前年に食味・収量センサ付コンバインを用いて収集したメッシュマップデータを基に可変施肥マップを作成し、可変施肥田植機で最適な施肥を実現することで、生育格差を解消します。また、山形県のブランド米品種「つや姫」においても可変施肥によって栽培を行うことで、食味を安定させながら収量を高める狙いがあります。
9月29日に、実証農場として参画している黒澤ファーム様のほ場において、食味・収量コンバインDR6130を用いての収穫実演会が行われました。今回は、田植機による可変施肥の必要性やこれからのスマート農業をレポートします。
実証担当者の声
可変施肥を行った実証区はばらつきが少なく、慣行区と同等以上の収量でした
可変施肥による基肥一発施肥は、夏場の追肥が必要ないので省力化に繋がります
山形県東南置賜地域では稲作経営体の大規模化が進むとともに、より効率的な農業を可能にするための基盤整備が進められていますが、小さなほ場が合筆されることにより、ほ場内の地力ムラが課題となっています。そこで、ほ場の大区画化に対応するため、可変施肥の効果を検証し、作業効率を高めつつ、収量・品質が高いレベルで安定した米づくりを推進することが普及指導員としての想いです。
今回、実証区、慣行区ともに投入する窒素量は6.0kgN/10aとしましたが、実証区では前年の収穫データを基にした可変施肥による、基肥一発施肥を行いました。慣行区では4月に全層施肥を施し、7月上旬に生育診断に基づく追肥を行いました。今回の実証においては、実証区の収量を慣行区の収量と同等以上にし、生育ムラが解消されるのであれば、夏場の追肥作業を省力できる他、安定生産が見込まれるため、生産者にとってメリットのある技術だと考えています。
KSASによる「見える化」で収量・品質向上が期待できます
8月からの低温や日照不足等の影響で穂揃いまでの期間が長くバラツキ、初期登熟が緩慢になった年でした。そういった年であっても可変施肥を行った実証区は均一な生育が見られ、慣行区と同等以上の収量が得られました。
収穫は食味・収量センサ付きコンバインDR6130で行いました。クボタの営農支援システムKSASと連動し、ほ場毎のタンパク質含有率や収量を「見える化」することで、お米の収量や品質の高位安定に貢献できる技術として期待しています。
「大規模稲作経営体におけるスマート農業技術の導入効果の検証」 概要
生産者の声
スマート農業の活用で、
消費者に「おいしい」と感じてもらえるお米を作り続けます
消費者と信頼関係を結ぶことで米の価値や価格は安定します
黒澤ファームは米に特化した経営を行っており、自社で直販することで収益向上を図っています。消費者は生産者がどれだけ苦労して作ったお米でも食べた結果がすべてです。「食べておいしい」と感じるお米を継続して届ける努力をし、安心・安全で高品質な米作りの想いをメッセージとして添えることで、お客様との距離を縮め、消費者との信頼関係を結ぶ事ができれば米の価値、価格は安定します。
「安心・安全」なお米を提供するため、KSASと食味・収量センサ付コンバインDR6130を導入しています
「安心・安全」な米づくりを行うにあたり、ASIAGAPを取得しました。その中で、労働管理、施肥管理等を行うためKSASを導入し、2019年には食味・収量センサ付コンバインDR6130を導入しました。収穫前、見た目では同じ色をしたほ場でも食味・収量メッシュマップデータを確認すると、ほ場内でもばらつきが数値でわかります。また生育ムラを視覚的に確認できるので次年度に向けた施肥設計が容易になります。また、食味・収量センサ付コンバインDR6130の導入をきっかけに、全国農業システム化研究会の実証農場として参画しました。スマート農業による精密な管理で、県のブランド米「つや姫」の収量向上と均質化を図る取組を行っています。
可変施肥はみどりの食料システム戦略に貢献する技術です
今春の移植作業にはクボタからアグリロボ田植機NW8SA(無人仕様)の実演機を借りて、自動運転による田植作業を行いました。無人で動いて、苗を植えるアグリロボ田植機を実際に初めて見たときは異様な感じがしましたが、農業を始めたときは想像していなかった「農業の進化」にすごいと感じました。
田植えの際、実証区では昨年DR6130で収穫したデータを基に基肥一発施肥で可変施肥を行いました。ほ場の区画が大きくなってくると、7月の暑い時期の追肥作業はとても過酷です。可変施肥を使用した一発施肥で収量や品質を安定させることができれば、肥料の低減や夏場の軽労化に繋がり、ひいては国が推進する持続可能な農業経営に貢献できるのではと考えます。
生産者の声
KSASを導入することで経営の「見える化」ができ作業効率が上がります
KSASでできることが増えて、より便利になったと感じています
2017年にASIAGAPに基づく生産工程管理を効率良く行うために、KSASを導入しました。私が就農する前は、日頃の作業日誌作成は、父や祖父も手書き作業だったので、重複や抜けているところがあり、作業にも支障が出ることがありました。KSASを導入することによって、簡単に入力が行え、またすぐに記録を遡れるのでミスも軽減され、新しい方が入ってきた際にもデータを見たほうがわかりやすいので、コミュニケーションも円滑に進みます。最近になってKSASではできることが増えてきて、気象データを活用した出穂後の積算温度の確認や、ほ場毎に出入水を記録し確認ができる水管理マップや機械のメンテナンスの状況を把握できたり等、使用しながら便利だと感じています。
担い手不足を逆手に取った農業経営をしていきたい
私は現在29歳ですが、小さい時から、担い手不足という言葉をよく耳にしていました。私にとっては、担い手不足は逆にチャンスだと捉えています。農作業をするには機械投資が必要になるため、各々の受持面積が増えれば投資分の回収が容易です。新しく入ってきた方に対しても、最先端の技術や情報を伝えていければ、成長スピードは格段に上がると思います。担い手不足を逆手に取り、明るい未来に向かっていることを、次世代にも伝えていきたいです。