スマート農業実証プロジェクト 現地レポート
スマート農業加速化実証プロジェクト
鳥取県|
稲|青ねぎ|
鳥取県南部町㈱福成農園のほ場において、10月6日に㈱福成農園スマート農業実証コンソーシアムが主催する、「令和2年度第2回スマート農業技術実演会」が行われました。同コンソーシアムは、令和2年度のスマート農業実証プロジェクトに採択されており、「次世代につなぐ水稲・白ネギを柱にした中山間地域水田複合経営モデルの実証」を行っています。実演会では①食味・収量センサ付コンバインDR595による収穫作業及び、KSASへのデータ取得②㈱トプコン自動操舵システムによる白ネギの土寄せ作業③ウインチ型パワーアシストスーツWIN-1を活用した米袋の運搬、3つのスマート農業技術が紹介され、参加者の熱心に質問する姿や、写真を撮る様子に関心度の高さが伺えました。
第2回スマート農業技術実演会
誰でも農業ができる
「農業のユニバーサルデザイン化」を目指して
㈱福成農園実証コンソーシアム概要
実証課題名:次世代につなぐ水稲・白ネギを柱にした中山間地域水田複合経営モデルの実証
~農業の「ユニバーサルデザイン化」・「データの見える化」を目指して~
課題・背景
●中山間地が多く、高齢化に伴う農業の担い手不足など構造的な問題が進展●担い手が活躍できる環境整備と産地力アップによる農業所得の向上
目標
●水稲作の労働時間14%削減●10a当たりの収量増加水稲10%増、白ネギ20%増、大豆60%増、小麦50%増
●経営全体における利益450万円増加
実証技術概要
「農業のユニバーサルデザイン化」
熟練者でなくても均質な作業・栽培管理が可能な仕組みづくり
労働改善・軽作業化等による人員確保と体制づくり
●直進及び施肥量キープ機能付き田植え機で効率田植え
●衛星画像診断及び診断結果を基にドローン等で可変施肥
●アシストスーツの活用
実証技術概要
「データの見える化」
収量・品質向上に欠かせない適切な管理による栽培体系づくり
●栽培環境データモニタリング・分析による栽培環境の見える化
●衛星画像診断結果に基づく適期収穫と食味・収量コンバインによるデータ把握
●合同会社清水川との衛星画像診断と食味・収量コンバインのシェアリング
スマート農業を駆使して父を超える農業者を目指す
会社を継いで見える化の必要性を体感
父から会社を継ぐ時、農業をはじめて5年も経っておらず、未熟な私が技術や経験不足を補うにはどうすればいいかが常に課題でした。父の頭の中にしかない知識や技術が多く、作業のマニュアル化がされていないため、試行錯誤の経営に陥り、経営が以前より悪くなった事に頭を悩ませていました。さらに現場で中心となって活躍していた方が事務や経営面に時間を取られ、現場作業を経験の浅い社員に任せたため、労働生産性が下がってしまいました。そこで省力・低コスト化を図りいかに経営改善を図っていくか解決策を打ち出す必要があると考えていたところ、鳥取県からスマート農業実証プロジェクトの提案を受け、スマート農業技術で活路を見出すため、県のコンソーシアムに参画、令和2年度の事業に採択されました。
KSASへのデータの蓄積を行うことでより効率的な作業を図る
実証において重要視したい部分は、データの蓄積を増やすことです。父の時代からKSASを導入していましたが、データがあまり更新されていませんでした。経営改善を図るためのデータは喉から手が出るほど欲しいので、作業をしながら自動で情報が集まってくるKSAS対応農機には魅力を感じています。今回、実演を行ったDR595はKSAS対応したコンバインで、今まで品種ごとの合計でしか得られなかったデータが、ほ場1枚当たりの収量や食味を自動で記録してくれるので、次年度以降の栽培管理に反映でき、収量・品質向上に期待できます。また、DR595は合同会社清水川とのシェアリングも行います。栽培に活用できるデータは多い方が良いので、今回のシェアリングでは機械の貸出を行う代わりにデータを蓄積させてもらう予定です。将来的には事業化を図っていきたいですね。
スマート農業で誰でもできる「農業のユニバーサルデザイン」を目指す
スマート農業に取り組む中で、老若男女関係なく同様の作業が行える「農業のユニバーサルデザイン化」を目指して行きたいと考えています。例えば、白ネギ栽培で定植前の植付け溝作りを頼むとします。すると曲がってはいけない難しい作業なので、皆さん嫌がるんですよね。そういった作業でも、自動操舵システムがあれば、未熟練者でもまっすぐに植付け溝を作ることができます。その後の土寄せ作業においても、通常前だけ見て作業を行うため土寄せに偏りが出ることがありました。自動操舵があると、後ろの様子を確認しながら作業が行えるので、仕上がりが綺麗になり、オペレータの方にも自信を持って作業を行ってもらうことができます。
運搬作業においても、私より力が劣る女性や高齢者が米袋を持たないと行けないときがあります。そういった時に、都度、力のある従業員を呼び出していては業務に支障をきたしますので、作業の平準化を図るためにアシストスーツの導入を行いました。導入したばかりで、慣れるまでに少し時間はかかりますが、慣れてしまえばスーパーマンです。アシストスーツがあれば誰でも力仕事ができるようになりますね!
父を超える農業を目指して
10年ほど前に農業を学ぶためアメリカに留学していた時期があります。留学先の野菜の大規模農業はすでに自動操舵を導入しており、新しく入った従業員でもすぐに作業ができる環境を構築していました。現在、日本はやっとそこに追いついたと感じています。今後は面積を拡大して1枚当たりの面積も大きくし、効率的な作業を図っていきたい。スマート農業の活用で無駄な事はせずにしっかり良いものを作って、父を超えるような農業人を目指したいです。
スマート農業の普及を図り鳥取県農業に活気を持たせたい
スマート農業で農業参入のハードルを下げる
鳥取県は、農業者の高齢化や少子化に伴う担い手減少が進行しており、新規就農者も少ない現状です。農業における技術のハードルを低くし、幅広い方が農業を行うためには、スマート農業化は進めていく必要性があると考えていました。そこで、スマート農業に関心の高い経営体の意見を参考にしながら、県でスマート農業の普及に取り組んできました。その一環として、令和2年度のスマート農業プロジェクトに応募し、㈱福成農園スマート農業実証コンソーシアムが採択されました。㈱福成農園が掲げる「農業のユニバーサルデザイン化」は、現状を打開し、新規農業者を確保できる解決策になると期待しています。
第2回スマート農業実演会について
スマート農業は気軽にできるという事を地域の農業者に知ってもらうために、実演会を開催しています。今回の実演会では、3つの柱で構築しています。まず、食味・収量センサ付コンバインDR595による収穫実演作業です。今まで1日に2〜3箇所収穫を行うので、ほ場1枚ごとの収量・品質を把握することは難しいことでした。DR595は、ほ場1枚当たりの収量・食味のデータがわかるため、次年度の管理に反映させることができ収量の安定を図ることができます。次に、白ネギ栽培における自動操舵システムの活用です。
今回の実演会では、自動操舵を使っての白ネギの土寄せ作業を行いました。定植する前の植付け溝作りにおいても自動操舵を導入しており、熟練者でも難しい作業を誤差2〜3cmの精度で作業が行えます。技術のハードルが下がることで、均一な作業が行え収量・品質が安定することに期待しています。
最後に、アシストスーツWIN-1の実演を行いました。力仕事の負担を軽減できれば、女性や高齢者でも作業を行うことができます。
スマート農業で活気ある鳥取県の農業に
鳥取県では農業生産1千億円達成プランを策定し、施策を進めており、スマート農業は目標達成を支える技術だと考えています。スマート農機という言葉だけに魅せられて、機械を購入される方もおられるので、高価なおもちゃとならないように、効率的な使い方を含めて費用対効果を分析し、地域への普及を図っていきたいと思います。スマート農業の普及によって鳥取県の農業が一層、活気あふれる様に尽力していきたいです。
㈱福成農園実証コンソーシアム 第2回スマート農業技術実演会 概要
作業実演1
食味・収量センサ付コンバイン DR595
実演会では、食味・収量センサ付コンバインDR595による収穫作業と㈱クボタ青山技術顧問によるKSASの説明会を実施。
作業実演2
㈱トプコン自動操舵システム
実演会では小型トラクタに装着した自動操舵システムによる白ネギの土寄せ作業を行い、手放しによる作業が印象的だった。
作業実演3
ウインチ型パワーアシストスーツWIN-1
オプションハンド「取っ手穴なし段ボール箱用」を使用して玄米袋の積み下ろし作業の実演を実施。