食料自給率の向上と、水田転換畑の地力向上につながると期待される「子実用とうもろこし」。栽培のポイントをご紹介し、その可能性を探ります。
(この記事は、平成27年11月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.32』を元に構成しています)
水田経営の安定と持続性を担う転作作物選択の重要性
近年の米の消費量低下に伴い、米価が低迷する中、水田の高度利用は水田経営体の存続に欠かせない課題となっています。転作作物を営農の大きな柱と捉え、個々の経営体に適した品目を選択することにより、経営の安定と持続性を担うべき時代が来ています。
大豆は、水田の転作奨励政策が始まって以来、転作作物の重要品目として生産が奨励されてきました。普通形コンバインを軸とした機械化体系が確立されたことなどから1990年代までは収量は増加傾向にありましたが、2000年代に入ると単収は低下傾向になり、その原因の一つとして、水田の地力低下があげられています。
このような中でも、北海道では平均収量が200㎏/10aを上回る安定した多収を維持しています。この大きな要因として、4作物の輪作体系が確立され(図1)、秋播き小麦収穫後の短期間であっても、えん麦、ひまわり、なたねなどの緑肥作物を栽培するなどして農地の地力維持・向上が図られていることがあげられます。これに対して、都府県の田作大豆では、大豆を連作する転換畑も多くあり、土づくりにはほとんど手が回っていないのが現状です。
自給率向上が求められる飼料用とうもろこし
2008年の飼料価格高騰により、水田転作の戦略作物として位置付けられている国産の飼料作物生産の重要性が再認識されるようになりました。家畜飼料の自給率(平成25年 農林水産省)は全体で26%で、そのうち、濃厚飼料の自給率は12%。子実用とうもろこしの生産はゼロに等しい状態です。北海道では昭和30年代に約15000ha栽培されていましたが、その後、安価な輸入コーンに対抗できずに生産されなくなり、現在では、サイレージ用とうもろこしがほとんどです。
しかし、2008年の飼料価格高騰を受け、国産子実用とうもろこしに対する畜産農家の期待が膨らんだことと、耕種農家においても新たな輪作作物として導入したいとの意向が一致したことから、数年前より生産が始まっています。都府県においても畜産農家と耕種農家が連携して、子実用とうもろこしを生産する事例がわずかながらみられるようになりました。
優れた乾物生産能力を持つとうもろこしは、10a当たり1000㎏程度の高い子実収量が期待でき、それと同量の乾物残渣を圃場に残します(写真1)。従って、都府県の水田転換畑において、水稲ー子実用とうもろこしー大豆の輪作体系が確立できれば、大量の有機物が土壌に還元できるようになり、水田転換畑で問題となっている地力低下、大豆の連作障害の解決に役立ち、需要が低下する水稲の作付け割合を下げ、自給率の低い大豆、子実とうもろこしの生産増加に大きく貢献すると期待できます。
課題は収穫機械と乾燥・貯蔵施設の確保
子実用とうもろこしを水田転換畑で生産する場合、最も重要な課題は収穫と乾燥調製です。乾物生産量が非常に大きなとうもろこしを刈り、脱穀し、残渣を排出する作業には、海外製の大型コンバインが向いていますが、そのサイズ・重量から運搬や圃場への影響等の課題があり、都府県の水田転換畑に導入できる地域は限られます。従って、北海道だけでなく都府県の水田転換畑で子実用とうもろこしの生産が拡大することになれば、それに適合したコンバインが必要になると考えられます。
子実用とうもろこしの収穫は水分含有量が約30%以下で行いますが、高水分で収穫するとカビ易く、直ちに15%以下に乾燥する必要があります。既存の乾燥機・施設での乾燥は可能ですが、1度に多量の収穫物を乾燥できる機械・施設を確保しておく必要があります。高水分で収穫した子実用とうもろこしは、粉砕し、脱気、密閉・貯蔵することによって長期貯蔵が可能なサイレージになりますが、密閉が不十分であると2次発酵がおこり高品質のサイレージとはなりません。貯蔵中の保管管理も大切で、広域流通にはあまり向かなくなるという欠点があります。
優れた省力性
とうもろこしの栽培は、水稲、大豆よりもかなり省力的です。水稲作と大豆作の労働時間が10a当り、それぞれ、28.1、8.2時間であるのに対して(平成26年 農林水産省)、子実用とうもろこしでは1.1時間(作業機械の移動、収穫物の運搬、残渣処理等を含まない)との試算があります。その要因は生育期間中の管理作業にあまり手間がかからないことにあります。とうもろこしは、雑草との競合力がとても強く、初期の除草だけで十分です。この他、窒素追肥作業がありますが、以降の管理作業は困難となるので、病害虫防除は通常実施しません。そのために、とうもろこしにとって重大害虫であるアワノメイガが発生すると減収は免れません(写真2)。
安定収量確保のための品種選択と排水対策
病害虫抵抗性については、品種の能力に頼ることが大きく、品種選択の際、とても重要な特性となります。さらに、早・晩生の選定、耐倒伏性も収量を大きく左右します(写真3)。
とうもろこしは湿害に弱く、排水不良の水田転換畑では湿害を起こし易く低収となるので、大豆と同様に排水対策は必要です。特に播種時の圃場の冠水は出芽不良となり、播き直しが必要となるため、播種時期の天候が不安定であれば、畦立て播種が向いています。条間は70㎝前後、株間は16〜20㎝程度です。北海道では9000本/10a、都府県の例では、7000〜8000本/10a程度で栽培・試験されています。
大豆と決定的に違うのは1点1粒播種をすることです。1株に1コーンが着生するため、苗立ちの確保はとても重要です。播種には1点1粒播種を高精度・高速でできる真空播種機(写真4)が向いており、北海道では、穴数を調整した目皿式播種機が使われている例もあります。施肥量は元肥を基本として北海道の低地土では、窒素、リン酸、カリ:14㎏(うち4㎏を7葉期まで追肥)、16㎏、10㎏/10a(北海道施肥ガイド2010)とされていますが、圃場の地力、堆肥施用の有無、土壌分析値に応じて増減肥します。
生育初期の除草は、飼料用とうもろこしで登録されている薬剤を使用するか(写真5)、除草カルチで行います。とうもろこし子実はカビやすく、適期の収穫が重要となります。赤カビ病菌によるカビ毒の蓄積は、収穫が適期よりも遅れるほど増えると報告されています。外皮に包まれている子実がメイチュウ等によって食害され子実が剥き出しとなると、そこからカビが発生します。また、温暖地での収穫遅れはカビ、穂発芽を誘発します(写真6)。
収穫後には、後作物の良好な苗立ちのために、残渣処理が欠かせません。収穫後、トリチュレータなどによる切り株の処理が必要です。秋耕が可能な地域では、収穫後できるだけ早く行い、圃場に鋤き込み残渣の腐朽を早めることが大切です。
水田高度利用への大きな潜在能力を秘めた子実用とうもろこし
現状では、売り先の確保なしに、子実用とうもろこしを生産することはできません。販売価格も輸入とうもろこしの価格帯20〜25円/㎏)ですと、魅力的とは言えません。さらに、高温多湿な都府県での子実用とうもろこしの安定生産には、さらなる栽培上の課題が浮上すると推測されます。しかし、自給率の低い子実用とうもろこしを水田転換畑で生産することは、水田の地力維持・増進が図れ、田作大豆の安定・多収にも貢献すると考えられます。我が国の食料自給率向上に貢献できる子実用とうもろこしは水田の高度利用には欠かせない潜在能力を秘めています。