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特集|ふれあいトーク

農業現場で進化を続ける

〜未来の農業経営と流通〜

未来の農業経営と流通

近年、農業において重視され始めている「経営」。安定収益が求められる一方で、生産した農産品の「流通・販売」の課題が浮き彫りになってきています。
今回は、静岡県で活躍する次世代を担う農業経営者お二人に、今後の農業の経営と流通、また地域社会における農業の未来についてもお話をうかがいました。
(この記事は、2019年8月発行のクボタふれあいクラブ情報誌「ふれあい」40号を元に構成しています。 )

新しい農業を模索しながらさまざまな取り組みに挑戦。

加藤氏(以下、加藤) 今回は、静岡県にある当社エムスクエア・ラボにお集まりいただきました。農業現場で新たな取り組みに挑戦されているお二人をお招きして、農業経営や流通の課題、今後の目標などについて幅広くお聞きしていきたいと思います。よろしくお願いします。

鈴木氏・上村氏(以下、鈴木・上村) よろしくお願いします。

鈴木 さっそく自己紹介から。京丸園株式会社の鈴木と申します。浜松の農家の13代目で、20歳で就農しました。当初は家族6人とパートさん4人の合計10人の農園だったのですが、15年前に法人化して、現在は約100人が働いています。

加藤 どのような作物を作られていますか。

鈴木 当園には3部門あって、水耕栽培の「水耕部」では姫みつば、ミニチンゲン菜、姫ねぎ(芽ねぎ)です。路地作の「土耕部」では米やさつま芋などを作っています。もう一つの「心耕部」では、障がいを持つ方もいきいきと働ける職場づくりをしています。

加藤 素晴らしい取り組みですね。上村さんは、いかがですか。

上村 株式会社パシオスの上村光太郎です。元々は他業種で働いていましたが就農し、新規就農認定がおりてから今年で10年目、法人化して3年目です。栽培品目はアスパラガスとキャベツ、それから玉ねぎにも挑戦しています。

鈴木 私が加藤さんと初めてお会いしたのは、静岡大学の視察の時でしたね。

加藤 はい。静岡大学が開講している社会人向けプログラムの、農業を学ぶコースに通っていたことがあり、その時の視察先が京丸園さんでした。それからいろいろとお世話になっています。

上村 私はアスパラガスを栽培する中で、工業機械を使って農作業や出荷作業をサポートできる部分がないかと探っている時に、鈴木さんから「農業分野で役立つ工業品やシステムづくりに力を入れている方がいらっしゃる」と加藤さんを紹介していただきました。加藤さんはいち早く「ベジプロ(農家と需要者をつなぐベジタブルプロバイダーの略)」の活動に取り組まれましたよね。

鈴木 そうそう。さらに「工業」や「ロボット」、「食を大切にする」といったキーワードを持っておられて、生産農家にとってはそういう視点がまだ珍しい時代だったので、とても興味を持ちました。

加藤 ありがとうございます。お二人は私を育ててくださった方々で、今では事業としてお付き合いできるようになって、本当にうれしいです。

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恵まれた環境を活かし、
良い作物を作りながら、
経営面で安定した収益を目指す。

加藤 お二人は現在法人化されていますが、農業経営はどのように取り組んでおられますか。

鈴木 私は父が水耕栽培を始めていたこともあって、就農当時からある程度システム的な農業を経験してきました。でもまだ、いわゆる「農業者」だったと思います。30歳の頃に「農業経営を学んだ方がいいよ」とアドバイスを受けて、経営戦略講座を受けたんです。

加藤 受けてみて、いかがでしたか。

鈴木 大変勉強になりましたね。農家というのは、いいものを作るのが使命です。種まきから生産までできて初めて優秀な農家とされていて、私もそのような農家になりなさいと教わってきました。でも経営では「逆算の考え方」が大切だといいます。要するにゴールを決めて、どうやったら現在地点からゴールまで行けるかを考えるのが経営だと。なるほどと思いました。

加藤 逆算の考え方をする上で、具体的な手がかりやポイントはありますか。

鈴木 「何のために農業をやるのか」「どんな農園にしたいのか」「どんな仲間と歩むのか」、この3つです。これをずっと考え続けることです。当時はその問いに対する答えがなかったので、道に迷ってしまったようでした。私は農家の長男で、当然のように家業を継いできたので、職業を「選択」していないんですね。だから、そこで改めて農業を選択し直して、追求していこうという感じでした。

加藤 その答えは見つかりましたか。

鈴木 今、私たちは「笑顔創造」を経営理念にしています。目の前の人の笑顔を作っていけば、自分たちも笑顔になり幸せになれるから、お互いの笑顔を創造していきましょう、ということです。そして私が一番大切にしているのは、当社の農園で働いてくれる仲間です。長く働いてもらうためにも、安定した収益を得られる作物を選んだり、加藤さんにもご協力いただいて作業の効率化を図ったりするなど、働きやすい環境づくりも心がけています。

加藤 「人財」という言葉がありますが、私も人は財産だと思います。上村さんは、どのような経営に取り組まれていますか。

上村 最初はハウスでアスパラガスだけを栽培していましたが、冬には収穫できないので、収益を安定させるためにキャベツ栽培も始めました。するとこういう時代なので、後継者がいない農家さんから「うちの畑でも作ってほしい」という依頼が増えて、どんどん農地が集まってきたんです。同時に生産資材の拡充も必要になり、移植機の台数を増やしました。クボタさんから勧めていただいたKSAS(クボタスマートアグリシステム)も活用しています。今後も農地は増えていくと思いますから、それに合わせて機械やシステムも上手に利用していきたいです。

加藤 目標はありますか。

上村 2016年に農林水産省の推進事業計画の一環で、オーストラリアに行く機会があったのですが、ほ場の面積はもちろん、物流の距離や仕組みも日本とはまったく違っていて驚きました。それがきっかけになって、タイやラオス、ベトナム、中国などアジアのいろいろな国を見て回り、その都度日本の農業インフラはとても恵まれているという印象を受けました。

加藤 海外の農業現場はかなりハードでしたか。

上村 はい。日本は恵まれているからこそ、取り組めることはまだまだたくさんあると思います。農業を発展させていくという目標の具体的な実現はこれからですが、地域の農地を守る取り組みは一生懸命続けていきます。もちろん、収益にもしっかりつなげていきたいです。

生産者や店舗が抱える流通の問題。
新鮮野菜を地域の人に届ける工夫。

加藤 上村さんから海外の農産物の流通についてお話がありましたが、日本でも近年課題になっていますね。

上村 はい。当社では、キャベツは生産量が多いのでJAや量販店をメインに卸していますが、アスパラガスは少量生産なので鮮度にこだわって地元を中心に販売しています。

加藤 上村さんには、当社の「やさいバス」を利用していただいています。

上村 アスパラガスの配送に、悩んでいたんです。もともと私が一人でレストランなどに配達していたのですが、口コミで紹介していただくうちに配りきれなくなって。しばらく宅配便でがんばっていましたが、近年の配送料の値上げもあって困っていました。地元の方に一番おいしい新鮮な状態で食べてほしいのに、それが物流のために叶わないのは心苦しかったですね。そんな時に「やさいバス」を知って、これだ!と(笑)。

加藤 ありがとうございます。お役に立てて、うれしいです。

上村 私の他にも、同じ問題を抱えている農家さんやお店は多いです。このシステムが日本中に広がっていくと、地域はもっと豊かになると思います。

鈴木 当社はつまもの野菜が中心なので、JAを通して全国の市場に卸しているのですが、「やさいバス」はJAともお互いに強みを活かして共存されているイメージです。

上村 需要があるところまで、いかに運ぶかですよね。ローカルではこれまで限界がありましたが、今は本当に助かっています。

鈴木 それに「やさいバス」は、ローカルの物流を支えているだけでなく、農産品の価値を高めていますね。

加藤 私はもともと工業分野出身なのですが、当社が7年前に農産品の流通を始めた時、商品がお金だけで評価されていると感じたのです。例えば100円と150円のキャベツがあったら、みんな当然のように100円の方を選んでいきます。でも、150円のキャベツの背景に減農薬の工夫や生産にかかる手間ひま、農家さんの思いが見えたら、こちらを選ぶ方がだいぶ増えるのではないかと思いました。特に食べ物は私たちの命を支えるものなので、お金だけで付き合うのではなく、人と人が出会って売買が始まる方が、自然だし長続きするはずです。こうして、地元の野菜を生産者のストーリーと一緒に提供することを始めました。

鈴木 お客さんとしっかりコミュニケーションが図れて、生産者もきちんと評価される、良い取り組みだと思います。

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多様な人が活躍できるのが農業。
地域産業としての発展を目指す。

加藤 今後の地域農業の展望について、どのように思われますか。

鈴木 農業は本来、家族単位がベースになれば安定しやすいのです。

上村 私も同感です。他の地域や海外の農園を見ても、本来は家族主体の形が、生産性を高めていて強い農家なのだろうと思います。

鈴木 ただ最近は、高齢化や後継者問題で難しくなってきました。また、これまで限られた人しか農家を継げなかったことが、農業分野に人が参入しにくい環境を作ってしまっていた側面もあり、人手不足が心配されています。

加藤 今後地域で農業を続けていくためには、どうすれば良いのでしょうか。

鈴木 いろんな年齢の方を採用して、ワークライフバランスにも配慮しながら、ずっと働いてもらえる環境を作るのが良いと考えています。目標は、90歳の人まで雇用できる会社です。

加藤 「終身雇用」と言いますが、本当の意味で終身ですね。

鈴木 はい。そういう雇用ができるのは、農業だからこそだと思います。人生をかけて社員になってくれるので、しっかり続けてもらい、最後に退職金も渡して、勤めて良かったと言ってもらえるようにしたいです。

加藤 近年は「働き方改革」が推進されていますが、その点でも農業においてどのような働き方が良いのか、また実現可能なのか考える必要はありますね。

上村 そうですね。働き方の一環として、家族が生活できる環境も重要です。仕事ももちろん大切ですが、まずは学校や病院、スーパーなど地域住民として生活できる空間が整っていることが前提です。

加藤 それには農業だけでなく他産業の人たちとも協力し合って、地域づくりをする必要がありますね。私は、農業は社会の中心産業になれると考えているんです。都心部でない限り、日本には全国に農地が残っています。老若男女、いろんな人たちが活躍できて、社会を支える基盤になれる場があると思うのです。

鈴木 その通りです。

加藤 その点では、お二人とも障がい者雇用にも積極的に取り組んでいらっしゃいますよね。

鈴木 年間一人ずつ採用して、今は10人です。障がい者雇用を促進している会社からの紹介です。農業は、障がいを持った人たちの心の健康にとても良いと言われているんですよ。当社では、営業職以外のすべての仕事に携わってもらっています。

上村 私も鈴木さんに紹介していただいて、現在では6人雇用しています。当社では農薬の取り扱いと機械作業以外は、ほぼ担当してもらっています。他に、海外からの技能実習生の受け入れも行っています。

鈴木 こうして多様な人たちが、自らの特性や力に応じて働けるのは農業ならではのことで、それこそが持続可能な農業を実現していくヒントだと考えています。また加藤さんとはIT化の取り組みも行っていて、これも未来の農業課題解決の手がかりになるはずです。

加藤 私は創業当時から「農業と工業を連携させて、農業の課題を解決しよう」というコンセプトを持っていて、鈴木さんに業務改善の課題がないか、お聞きしてみたんです。

鈴木 ちょうど困っている品目があったので、専用の生産機械とそれに連動した集計システムを作っていただきました。私は、ITやシステムを用いて数値化することで、見えるテーマがあると考えています。例えば、効率的なシフト設計がわかれば有給休暇に還元でき、作業量が数字で表れれば数量管理や従業員の達成感・モチベーションにつながります。試行錯誤を重ねながらも、こうしたツールを"次の農業"に活かしていきたいですね。

加藤 今日は、地域における「未来の農業のカタチ」を考えるヒントをたくさんいただきました。ありがとうございました。

鈴木、上村 ありがとうございました。

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