
兵庫県丹波篠山市で地域の特産品である丹波黒枝豆をメインに、サツマイモの栽培も手がけ、直売所と焼き芋スイーツ専門店も展開している株式会社アグリストリート。代表の大坂さんは未経験から農業の世界に飛び込み、効率化を求めた独自の栽培方法の確立や6次産業化、流通網の整備など、日々の取り組みの中から新しいチャレンジをどんどん続けています。そこには、新規就農者だからこその視点と発想がありました。地域の資源を信じ、未来をつないでいこうとする大坂さんが実践する、新しい農業の道に迫ります。
目次
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未経験から始めて痛感した、新規就農の難しさ。
大坂さんと農業の出会いは、大学生の時でした。丹波篠山市の集落で行われていた農業体験の授業に参加し、地域の農家さんたちと一緒に毎週活動していたそうです。しかし、授業は1年しかなく、それで終わってしまうのが寂しくて農業サークルを発足。地域とのつながりを継続しながら、農業の楽しさを体感していったと言います。そんな大坂さんの好奇心はやがて海外に向き、自分の知っている以外の農業も見たくなり、ドイツのブドウ農家でのファームステイも経験。栽培だけではなく、加工してジュースやワインを作ったり、そのワインを使ってウェディングパーティーを企画したりと、農業は食にまでつながる仕事だと強く感じた時に、就農することを決意したと教えてくれました。
そして慣れ親しんだ丹波篠山の地で就農した大坂さん。農地はかねてからの縁で紹介してもらえたものの、実際に作物を栽培して収益を残していくことにはとても苦労したそうです。「お金を生み出すはずの作物がなかなか思った通りに作れず、ちゃんと売れたとしても意外とお金が残らない状態でした。農業経験があったとはいえ、分からないことが多いし、そもそも何が分かっていて、何が分からないかも定かじゃない。新規就農の難しさと、計画的な営農の大切さを痛感した初年度で、まさに傷を負いながら学んだという感覚でした」(大坂さん)
転機が訪れたのは就農してから3年目の頃。丹波篠山市は全国でも有数の黒枝豆の産地で、農業を続けていく中でブランド価値を実感し、丹波黒枝豆をメインにした営農へとシフトしていきます。「需要があるものを作ることが大事だなと。ちゃんとブランド化されていて、特産地で作られる商品の方がお客さんも価値を感じて買ってもらえる」というのが、丹波黒枝豆を選んだ理由でした。


機械の力が発揮できるように、栽培方法を根本から変える。
丹波黒枝豆の収穫は、ほ場に入って太枝切りバサミで幹を切って回収するなど、まだまだ手作業が主流。
丹波黒枝豆は一般の枝豆に比べて幹が太いのが特徴で、枝豆収穫機を使うと機械が幹に負けてすぐにつまってしまう為、機械化が進んでいないと言います。
しかし、産地を盛り上げ、面積を拡大しながら収量を高めていきたいと考えていた大坂さんは、このままでは作業の効率化が図れないと判断し、栽培方法の抜本的な改革に着手しました。
「効率化のためには機械の導入が必須なので、機械に合わせた栽培方法に変えていこうと思ったんです。丹波篠山の伝統的な栽培方法は、僕たちが実践する畝よりも2~2.5倍のサイズがあり、根っこが広がることで幹も木も大きくなります。一方で僕たちは、幹を細く作りたくて、畝のサイズを縮小することで、収穫機にも対応できるようになる。そういう意図で畝の幅などを設定しているんです。
木が小さいのでついているさやの数も少ないですが、植える数は多くなるため、1つのほ場で考えると収量は上がるという仕組みになっています。作業効率が上がるなら機械に頼り、その機械の能力を最大限に発揮できるように栽培方法も変えていく。それが自分たちのスタイルです」(大坂さん)


直販まで手がける6次産業化は、農業者としてのやるべき努力。
ドイツでのファームステイの経験から、大坂さんは6次産業化の取り組みも始めています。丹波篠山市の篠山城下町エリアは観光地でもあり、そこに丹波黒枝豆の直売所と焼き芋スイーツの専門店『恋々芋』を出店。「僕たち農業者は、あらゆる食の原料を作っています。卸販売も大切な取り引きですが、自分たちで直販することは手間もかかるけど、得られるものが大きい。今の時代、農業者もそこにフォーカスして努力できるのではないかと思い、6次産業化に取り組んでいます。お客さんからの喜びの声が届くとうれしいですし、味のフィードバックを直接受け取れるのも、直販している理由ですね」(大坂さん)
また、さらなる取り組みの1つとして、丹波篠山エリアの農業法人の方々と発起人となり、流通会社を設立。それぞれで販路は持っていますが、より多い物量を確保して大きな取り引きを作っていくために手を組んだそう。その背景には、全国的にはまだまだ知名度が低い丹波黒枝豆を、より多くの人に届けたいという大坂さんの想いがあります。


丹波篠山ブランドを発展させ、全国へと広げていきたい。
アグリストリートという社名は、農業と関わりのなかった人がこの地に集まり、それぞれの取り組みから道ができていくという想いで名づけたもの。現在、大坂さんはそんな道が少しでも増えるように、SNSやオンラインを活用しながら新規就農者に向けたサポートも行なっています。自身が経験した就農時の苦労を伝えながら目指すべき道を明確にして、丹波篠山をはじめ、いろんな産地を盛り上げる農業者を増やしていきたいからです。
「栽培技術を高め生産量を増やしながら常に新しい方法を模索し、それをみんなに共有していきたい。そういう仲間と技術を持っていれば、新規就農者はもっと増えると思うんです。この地でどんどん輪が広がっていく、そんな農業を展開したいと思っています。そして丹波篠山のブランドを守りながら育て、全国に広げていく。そういう取り組みを続けていきたい」と、大坂さんは熱い胸の内を話してくれました。

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