日本有数の穀倉地帯として知られる山形県庄内平野の南部で、約11,000haの水田を受益地として、農業用水の供給、施設の維持管理、農地整備などの土地改良事業を行っているのが庄内赤川土地改良区です。国営ICTモデル事業として、水管理の労力と水利施設の維持管理費用の低減を目的に、ICT自動給水栓“WATARAS”と揚水ポンプの自動制御システム“KSIS”が連携した「ほ場配水制御システム KiDAS(カイダス)」を導入。揚水機場からほ場までの水管理を自動化し、地域の営農者とともに効率的な水管理を行っています。
インタビュー映像
目次
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国営ICTモデル事業で「ほ場配水制御システムKiDAS」を導入
WATARASとKSISを連携して水管理を自動化
湯野沢地区は、水稲と鶴岡市の特産品えだまめ(だだちゃ豆)を栽培している農家が多い農村地帯です。担い手の高齢化が進む中、えだまめの収穫時期には、水田の水管理が、番水期と重なり作業に集中できないなど、その労力負担が悩みでした。また、揚水機場は、ポンプが過度に稼働し、適切な用水管理ができていないという課題を抱えていました。
それらの課題を解決するため、庄内赤川土地改良区では、湯野沢地域の水田約30haを対象に、国営ICTモデル事業を実施。WATARASとKSISが連携した「ほ場配水制御システムKiDAS」によって、ICTを活用したスマート水管理システムを構築しました。
管内のほ場に設置されたICT自動給水栓WATARAS(電動アクチュエータ)は総数117台。水田の給水をスマートフォンやパソコンで、遠隔操作または自動で制御することができます。一方、栄第4揚水機場は、KSISによって、WATARASの開閉状況から、各ほ場の水需要量を自動算出して、揚水ポンプ運転を自動制御。ポンプ場とほ場の自動給水栓を連動することで、地区の水管理の自動化が実現しました。この「ほ場配水制御システムKiDAS」によって、営農面では、大幅な水管理労力の軽減が図れ、水利施設の管理面では、用水量や電気料金等の削減につながっています。
湯野沢地区のほ場に設置された117台のICT自動給水栓WATARAS
※湯野沢地区のWATARASはバルブの仕様の関係上、支柱によって補強しています
KSISで揚水ポンプの運転を自動制御しWATARASと連動する栄第4揚水機場
課題だった水管理の労力と安全面をWATARASで解消
株式会社アグリシア
代表取締役 上野 吉弥さん
国営事業による新しい水管理システム導入の話を聞いたとき、「すぐやってください」と諸手を挙げて賛成しました。集落の中で説明しても誰も反対者はいませんでした。それほど、水管理は大変だったのです。水稲栽培全体の管理の中で、田植えと稲刈りを除けば、その内の5割以上が水管理の労力です。7月中旬頃から、えだまめの収穫が始まりますので、その時の水管理が一番大変です。さらにこの時期、限られた時間ずつ順番にかんがいする番水になるため、もっと忙しくなります。WATARASの自動給水栓によって、水管理の労力が半減され、安全面でも夜間の見回りもなくなり、みんな良かったと思っています。特に喜んでいるのは、集落内の人よりも、少し離れた地域に住んでいる入作農家の方々じゃないでしょうか。自宅でスマホを操作して水管理ができ、何か異常が発生しても、『何時間経っても水位が上がりません』とか、『漏水の可能性があります』など、エラー警告表示や、メール通知機能があるので安心です。
湯野沢地区の生産者のまとめ役として事業に貢献した上野さん
除草効果を最大限活かす管理ができるWATARASでの一定湛水
WATARAS導入による栽培上のメリットとしては、除草剤の効果が挙げられます。水稲の除草剤は、この地域では、田植えと同時に処理する初期除草剤や一発除草剤が主流です。一発除草剤では、処理してから最低3日間は田面が露出しないように、1週間は落水しないように注意が必要ですが、田面が露出すると処理層が壊れて十分な効果が得られません。WATARASであれば、一定湛水の機能があるので、田面がでないように簡単に水管理ができ、除草剤の効果を最大限に発揮できていると思います。
地域全体で湯野沢の農地を守っていけたら、一番いいと思っています。最近、湯野沢地区だけでなく周辺地域全体としても、若い後継者が少しずつ増えてきています。7、8年前は私の代で終わりかなと思っていましたが、息子が後継者として帰ってきてくれましたので、何とか次の世代につなぐことができそうです。息子もWATARASを使いこなしていますが、KSASとの連携によって、より見やすくなって使いやすくなったと言っています。
私は、超アナログ人間で、スマホ操作などは得意ではないですが、そんな私でも、WATARASを使ってスマホで管理することができます。スマホで電話をかけたり、メールを送ることができる人であれば、誰でも簡単に使いこなせると思います。WATARASのようなスマート農機が当たり前になってくれば、若い世代の人にとっても取り組みやすくなると思いますし、地域の活性化につながっていくと思います。
設定した水位を自動で保つことができるWATARASの「一定湛水」機能を使い、スマホによる遠隔操作で水管理を行っている
KiDASの導入効果で揚水機場の維持管理費を削減
庄内赤川土地改良区
工務第一課長兼国営施設管理室長
佐々木 正秀さん
庄内赤川土地改良区
工務第一課
大井 大輝さん
今回導入したシステムは、自動給水栓と揚水機場を連動する水管理システムです。自動給水栓が開いて、ほ場に水が給水されると信号が送られて、例えばそのとき揚水機場が止まっていたとしても、自動で立ち上がって水を供給するシステムになっています。また、ほ場の自動給水栓をグループごとにスケジュール運転することで、“番水の自動化”を実現しています。結果的に揚水ポンプは必要な時に必要な量だけの送水を行うので、運転時間の削減につながりました。
今回、このシステムを導入したことによって、揚水機場に関しては、事業実施前と比較して、電気使用量が約14%軽減しました。供給している総水量に関しても、約20%軽減されたという報告がされています。農家様の作業時間に関しても、水管理にかける労働時間が半減したというようなデータ結果も出ています。
栄第4揚水機場とWATARAS
WATARASとKSISの連携イメージ
揚水機場の屋内に設置されたWATARAS中継機
ポンプの制御盤に接続されたKSISの通信ユニット
本事業における実証の結果(庄内赤川土地改良区調べ)
※電気料金については令和4年度は高騰により増加となった
スマート水管理システムの導入を支えてくれたクボタのサポート
KiDASの導入・運営に対して、クボタグループの皆様に、とても手厚いサポートを受けているというのが実感です。トラブルがあれば、その都度、電話等で対処していただけますし、場合によってはすぐ駆けつけてくれます。私たちも説明書なりで、操作に関しては、地元の方に説明することはできますが、どうしても私たちでは、わからない内容もあります。その際に、クボタさんに相談すれば、きちんと解決できる形で答えを返してくれますので、その辺は大変ありがたく感じています。
今回の事業を実施したことで、多くの関係者の方から問い合わせをいただき、現地に視察に来られています。私たちとしても大変ありがたく、取り組んでよかったと感じています。このような省力化につながるスマート農業技術は、今後は増えていくと思いますし、この地域は稲作が中心の地区ですので、稲作が衰退することで、地域全体の活力が下がります。このような取り組みを通して農地を守り、地域農業の発展につなげていければと思っています。
システムについてクボタの担当者の説明を受ける土地改良区の佐々木さんと大井さん
WATARASとKSISによるICT水管理は、地域の誇りです
栄第4揚水機場 運転手
阿部 正志さん
今までは、1日に3回も4回も、ほ場に来て、水位を自分の目で確認し確かめて、手で給水栓を開けたり、閉めたりしていました。国営のICTモデル事業で、栄第4揚水機場のほ場が全て自動給水栓になると聞いたときは、不安よりも期待の方が大きかったですね。
私は、自身も水稲農家でありながら、栄第4揚水機場の運転手も務めています。以前は早朝5時から運転のために、揚水機場まで行っていました。それが自動化され、タブレットやパソコンで管理できるようになりました。全部KSISで、今の時間、誰の、どの自動給水栓が、何台開いているのか、今、ほ場がどういう状況か一目でわかります。
これは、もう自慢、いや誇りですね。他の地区の人から見たら、「うらやましい」と思われていると感じますよ。
土地改良区の佐々木さん(写真右)と連携を取りながらKSISで揚水機場の運転管理を行う阿部さん
栄第4揚水機場のKSIS監視画面
栄第4揚水機場のKSIS監視画面
WATARAS効果で農家の方々の笑顔が増えました
株式会社南東北クボタ
三川営業所
所長 佐藤 勇人さん
この地域では、多くの方が、えだまめを作付けしていますから、6月~7月は、畑作業をしながら水田の水管理をしなければなりません。畑作業に手がかかると、ほ場の見回りが夜になることもあります。WATARASのおかげで、スマホやタブレット、家のパソコンでほ場の水管理ができるようになり、ほ場に行かなくてもよくなりました。水管理の労力を軽減でき、その分、畑作業に集中できるということで、導入前よりも1日の作業が早く終わっているように感じます。しかも、ほ場の水位・水温の状況がWATARASの画面を見ればわかるので、「時間に余裕ができた」という話をよく聞くようになりました。WATARASが導入されて、農家の皆さんが笑顔になりましたね。
湯野沢地域の営農を機械化の面からサポートする南東北クボタ三川営業所の佐藤所長